補助金という“麻薬”に頼らない経営戦略を目指せ【短期連載】希望という名の路線バス(3)
- キーワード :
- バス, 路線バス, 希望という名の路線バス, 宇野自動車, 銀河鉄道
路線バス赤字96%の現実
路線バス事業者の「96%」は赤字経営である。路線バスの専門家である筆者(西山敏樹、都市工学者)がこのことを本媒体で繰り返し書いてきたのは、まず覚えてほしい数字だからだ。
ただ、すべての事業者が経営努力をしているかといえば、答えはノーである。行政から補助金が出るからやっていける事業者もある。いうまでもなく、補助金には上限がある。そのため、懸命な経営努力をしても経営が成り立たない事業者に優先的にプラスされることが望ましい。
岡山県岡山市に宇野自動車(通称・宇野バス)という事業者がある。皆さんはご存じだろうか。
・岡山市
・美作市
・赤磐市
・備前市
・瀬戸内市
を走っている。「宇野」というのは地名ではなく、オーナーの家族の名前で、この時点でユニークだ。宇野バスの特徴、それはずばり、
「自治体からの補助金を一切受けていない」
ことだ。
福沢諭吉に学ぶ経営
宇野バスのウェブサイトによると、同社の経営理念は福沢諭吉の
「独立自尊」
の精神に基づいている。慶応義塾大学出身の筆者は当時、福澤の
「心身の独立を全うし、自らのその身を尊重して人たるの品位を辱めざるもの、之を独立自尊の人と云う(心身ともに自立し、自分自身を尊重し、他人の尊厳を傷つけることのない人を、独立自尊の人と呼ぶ)」
という論をよく教えられた。つまり、自他の尊厳を守りながら、何事も自己の判断と責任に基づいて行うという、日本最古の近代学塾である慶応義塾の基本精神である。宇野バスの宇野泰正社長はメディアなどで、
「自由競争、公平原則の自由経済の理念の中で生きるからこそ、企業は自立して経営がなされねばならない」
と語っている。宇野社長による、ウェブサイトの「会社案内」の文章も印象的だ。引用する。
「宇野バスは、公共性の高い独立法人ではありますが、その実態は「宇野商店」みたいな性格を強く持っています。創業時からの企業哲学というか、社風というか、そういうものを今も色濃く受け継いでいるし、社内もまるで大家族みたいな感じなのです。そもそも、「バスでお役に立たせていただく」というのが祖父や父の口癖ですし、儲けだけを考えるなら、他の事業をやった方がうんといいんですよね。実際、バス会社の多くが赤字という状況で、ビジネスとしてはなかなかしんどいものがあります。それでもなお、バス事業をやっていく。ただ存続させるだけではなく、お客さまに十二分に満足していただいて、企業として立派に自立してやっていく。きれい事のように聞こえるかもしれないけれど、「世の中の役に立っている」という想いが私たちを動かしている。社員全員を動かしている。そんな気がしてなりません。正しいことをやって、それで会社が立ち行かなくなったら、つぶれてもしょうがない。そう考えると、現在の宇野バスは世の中のお役に立たせて頂いていると言えるんじゃないでしょうか。とどのつまり、私たちはバスが好きなんです。バスは、たくさんの人のたくさんの物語を乗せて走っている。通勤・通学といったごくありふれた日常のなかでも、バスの車内で恋が生まれたり、孫に会いに行くおばあちゃんの笑顔があったり、別れがあったり。そういった日常の底辺で私たちは、安全で便利で経済的で心地よい移動手段を提供していきたい」
実際、補助金は“麻薬”のようなものだ。スタッフが企業努力を怠るという懸念もある。経営面で資金援助をする地方自治体の要求を企業が聞かざるを得ない場合もある。経営改善のアイデアも、当然ながら実を結ばない。それでも補助金があれば、と頼るようになる。
こうした悪い副作用を断ち切ることが重要であり、宇野バスはそれを実践している。自助努力が経営改善につながっている。