自動車CMの聖地――信号ゼロの「絶景ロード10km」をご存じか
CMが集う「信号のない10km」

長崎県の北西に位置する平戸市・生月島。その西側をなぞるように伸びる「生月サンセットウェイ」は、およそ10km続く一本道だ。農免道路として整備されたルートだが、今では地元住民よりも、全国のテレビCMやプロモーション映像の関係者に知られる道になっている。島は南北10km、東西2kmほどの細長い地形で、東側に集落と生活圏、西側は切り立った断崖と東シナ海という、はっきりとした対比を持つ。
1991(平成3)年、生月大橋が開通し車で渡れる島になってから、観光地としての顔が強まった。だが、この島の歴史はさらに厚い。キリシタン布教、捕鯨、巻網漁業――時代ごとに主役が変わりながら、海との関係を軸に経済が回ってきた。島名の由来は「船旅の途上で、この島を目にして安堵したから」とも言われる。今も歴史資料館や教会が点在し、断崖や灯台、生月大橋といった景観スポットが訪問者を惹きつける。
この道が映像業界で評価される理由は「絵になりやすさ」だけではない。海に光が反射し、ゆるやかなカーブが連続する一本道は、スピード感よりも“気持ちよさ”を写す。車の走りを強調しつつ、余計な情報をそぎ落としたフレームが作れる。そのためメーカーごとの世界観に染めやすく、車種を選ばない“万能な背景”として扱われる。
10km途切れず走り続けられるという事実も大きい。信号も交通量も少ない環境は、ワンカット撮影を可能にし、ロケコストを劇的に下げる。市街地や観光名所で撮影しようとすれば、規制や立ち入り調整にかかる手間が跳ね上がるが、生月ではそれがほとんど発生しない。景観の“ノイズ”が少ないため、ブランドイメージを上書きしやすい――このロケーションは、言わばメーカーにとっての「白紙のキャンバス」なのだ。
ただし、映像需要が膨らむほど、地域側には別の課題が生まれる。生活道路である以上、通行制限や維持管理の負担は地元に返ってくる。観光や撮影で注目されるほど、道路そのものが「使われる資源」に変わっていく。この変化をどう受け止めるかは、自治体や住民が向き合わざるを得ないテーマになりつつある。道路が“移動のためのインフラ”だけではなく、“情報発信の土台”として価値を持ち始めたとき、地域政策は何を前提に議論すべきなのか――その問いが、この10kmに突きつけられている。