日本vs欧州シンクタンク 「バッテリーEV」集中回避か、意地でも推進か? いったいどちらが正しいのか【EU自動車産業の将来を読み解く】
重要な原材料供給先の多様化

半導体関連原材料の需要は、2050年までに倍増すると予測されている。
調達先を多様化し、欧州への安定供給を確実にすることが、電動モビリティ、バッテリー、再生可能エネルギー、デジタル製品などの市場にとって非常に重要なため、ECは2020年9月、重要原材料行動計画を採択した。
COVID-19とウクライナ危機により、重要な原材料供給先多様化の優先度が一気に高まり、OEMなど下流に位置する企業は、強靭なサプライチェーンの開発を支援する必要がある。
人工衛星による新鉱山の探査を進めると同時に、持続可能であるために材料使用量の削減や代替材料の開発を行い、製造から廃棄までのサプライチェーン全体の環境負荷低減に取り組んでいる。
リスキリングと能力再開発

自動車業界の労働者が、デジタル化、自動化とAIの進化に追いつくには、能力を再構築する必要があり、そのためにEUは生涯学習の実現に投資する。
2020年7月にECは欧州技能アジェンダを立ち上げ、まず自動車分野で大規模なパートナーシップを設立する。毎年労働者の能力を5%向上すれば約70万人分の労働力が生まれる。小規模な試行~民間での実現~社会全体での実現により最終的には70億ユーロ相当を生む可能性を秘める。
2021年2月、リクルートワークス研究所は経済産業省に対してデジタル時代のリスキリングに関する提言を行った。ここではリスキリングを
「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得すること」
と定義している。
米国のIT関連企業であるAT&Tは2008年、
「25万人のうち、未来の事業に必要なスキルを持つ従業員は半数に過ぎず、約10万人は10年後には無くなるハードウエア関連の仕事のスキルしか持っていない」
と自己評価し、2013年に「ワークフォース2020」というリスキリングプログラムをスタートし、2020年までに10億ドルかけて10万人のリスキリングを実行し、成果を上げた。
日本でも自動車および関連産業では、電動化に適した組織への変更と開発要員の再配置が既に定着しているが、リスキリングは、デジタライゼーション要員育成の仕組みとの誤解もあるようだ。
国や企業が支援の枠組みを作っても、当人に危機感がなければ成果は出ず、淘汰(とうた)されるしかない。日本の終身雇用制度は既に終焉(しゅうえん)を迎えつつあることにも気づく必要がある。