日本vs欧州シンクタンク 「バッテリーEV」集中回避か、意地でも推進か? いったいどちらが正しいのか【EU自動車産業の将来を読み解く】
乗用車のカーボンフットプリント

欧州の文献では「Carbon Footprint」という用語がよく出てくる。米国の自動車認証では、車両のホイールベース(前後の車軸間距離)×トレッド(左右のタイヤ中心間距離)で計算される面積を意味し、この計算値に応じて燃費基準を設定している。
現在は、製品のゆりかご(原材料調達)から墓場(リサイクルまたは廃棄)までのライフサイクルアセスメント(LCA)全体で排出されるGHG排出量をCO2に換算した数値、を意味する。長いので「ライフサイクル炭素排出量」と翻訳する。
走行中はゼロ排出のバッテリー式電気自動車(BEV)でもLCAでは炭素を排出しており、その多寡は、パワートレーンの種類、電力ミックス等に影響される。
ICCTの試算例

欧州でゼロ排出モビリティを推進する、環境シンクタンクの国際クリーン交通委員会(ICCT)の試算例を紹介する。
ICCTは、世界的にシェアが拡大中のSUVを対象に試算しており、同クラスの乗用車のCO2排出量は、SUVより若干少ない。
相対的な傾向はおおむね図の通りだが確定ではない。電動車のCO2排出量は発電時のCO2排出量により大きく変動する。フォルクスワーゲンは2019年、自社BEVのLCAでのCO2排出量を自社ディーゼルエンジンと比較した。電力ミックスの影響は大きい。
トヨタ自動車は2021年3月の自動車工業会(JAMA)の勉強会で、2030年には代替燃料を使うエンジンの熱効率向上でハイブリッド車(HEV)がBEVの排出量を下回る試算結果を示した。
政治的判断は確信犯的に偏向する

国際エネルギー機関(IEA)も独自の試算結果を公表した。ここでは、車両サイズ(と質量)の影響と、バッテリー容量(航続距離)の影響も定量化している。
どれが正しい、正しくないという問題ではなく、試算の条件が変われば結果も変わるのだ。
BEVを中心とする電動化による自動車の脱炭素化を強力に推進するICCTと、BEV一局集中のリスクを嫌い、パワートレーンの多様化を主張する自動車産業界代表のJAMAが、うそではないが、それぞれ主観的に絞り込んだ試算結果を示すのは当然だ。IEAの結果が最も客観的に思われる。
プロパガンダ、偏向報道、世の中にはさまざまな情報があふれている。公的機関や大企業の情報だからうのみにするのではなく、常に疑念を持ち、より幅広く情報を収集することで、科学的に合理性のある結果がある程度見えてくる。
残念ながら、世の中は必ずしも科学的合理性だけで動いているわけではない。EUの脱炭素政策はライフサイクルでのCO2排出を考慮していないし、今後も考慮する可能性が低いことは周知の事実だ。政治的判断は確信犯的に偏向する。