日本vs欧州シンクタンク 「バッテリーEV」集中回避か、意地でも推進か? いったいどちらが正しいのか【EU自動車産業の将来を読み解く】

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文献「EUの自動車産業の将来」を題材として「自動車分野の未来」を概観するシリーズ企画。第5回はEUレベルの政策対応について考える。

充電インフラの整備

EU域内の充電ポイント分布2020(画像:欧州自動車工業会)
EU域内の充電ポイント分布2020(画像:欧州自動車工業会)

 持続可能でスマートなモビリティ戦略でも、代替燃料インフラ指令を再検討し、充電/充填(じゅうてん)ステーション増設により電力と水素を利用しやすくすることを提案している。

 インフラ設置の進行状況を監視する欧州代替燃料観測機構によると、EV充電インフラの設置は急速に拡大しているが、水素インフラの増設は相対的には遅く、どちらも少数の加盟国に集中する。

 なお日本の充電ポイントは2020年には2万9233基であったが、2021年は老朽基が撤去されて2万8146基に減少した。

 ゼロ排出車の需要を高めるために、

・炭素価格
・課税
・通行料徴収
・車両の質量/寸法関連規則

を変更し、さらには法人優遇と都市部の電動車採用を支援する活動も予定されるが、最終的には採算が取れるビジネスにならなければ画期的な拡大は望めない。

EUのFit for 55政策パッケージ提案

「Fit for 55」法規パッケージ(画像:Fit for 55)
「Fit for 55」法規パッケージ(画像:Fit for 55)

 欧州グリーンディールとEU気候法の一環として欧州委員会EUは2021年7月に「Fit for 55」法規パッケージを提案した。

 目標は、2030年までに温室効果ガス(GHG)を55%削減することで、これにより自動車分野の持続性がさらに高まることを期待するが、ACEAは

「EUが、特定の技術を規制あるいは事実上禁止するのではなく、あらゆる選択肢 (エンジン, PHEV, BEVと水素燃料電池等)の技術革新に焦点を置くべき」

との懸念を表明し、充電/充填インフラ増設を推進するための必達目標の設定が必要と主張する。

 Fit for 55で、自動車産業に直接関係する内容は、

・乗用車とバンのCO2排出規制強化
・ゼロ排出車用インフラ整備基準変更

となっている。

 新車平均CO2排出量を、2021年比で2030年以降55%、2035年以降は100%削減することで、ゼロ排出モビリティへの転換を刺激。自動車の平均寿命約15年を考慮すると、欧州の全車のゼロ排出化は2035年から2050年の間と考えられる。

 EU加盟国は主要高速道路で充電ポイントは60km間隔、水素充填ポイントは150km間隔で設置することが求められる。

5Gによるデジタル改革

EUの5G行動計画概念図(画像:haptic)
EUの5G行動計画概念図(画像:haptic)

 ECは、グリーンとデジタル双子の転換にはインターネット市場の強化が必要と認識し、EUにインターネットにつながる自動運転車(CAV)の開発と、それに必要な人工知能(AI)およびデータ分析学分野への投資増大を求めている。

 そのためには2016年に発行された5G行動計画に示すデジタルインフラの開発を進め、高い安全性を備える5Gネットワークを使うデジタルサービスの実現が必要なため、自動車分野は5G自動車同盟を設立した。

EUのモビリティ戦略

 2018年5月、ECは自動運転とコネクテッドモビリティシステム戦略を提案し、自動運転モビリティに関するヴィジョン、主要な技術、サービスとインフラ開発を支援する活動方針を明示した。

 一方、消費者の受容度を高めるためにEUの政策枠組みを更新することが、2020年12月の第3次モビリティパッケージに織り込まれている。

 持続可能なスマートモビリティ戦略では、EUの輸送システムを変革するための段階的な計画の概要を示すとともに、デジタル面にも焦点を当て、その行動計画にはスマート変革のために重要な2分野、

・コネクテッド化され自動運転されるマルチモーダルなモビリティの実現
・イノベーションとスマートモビリティのためのデータとAI

に関する70の具体的な活動から、特に重要10項目を抽出した。

1.ゼロ排出車、再生可能および低排出燃料と関連インフラの導入を加速
2.ゼロ排出空港と港の建設
3.都市内と都市間モビリティの持続性と健康度を高める
4.貨物輸送のグリーン化
5.炭素に価格をつけることで消費者に有利な優遇策を提供
6.ネットにつながり自動運転される多様な形態のモビリティCAVを実現
7.スマートモビリティのためのイノベーション、データと人工知能
8.欧州統一市場の強化(インフラと車両への投資拡大、域内市場の強化、危機に強いシステムの実現)
9.誰に対しても公正で公平なモビリティの実現
10.輸送の安心と安全を高める

 一方、ACEAはEUの新たな都市モビリティの枠組み実現のため、次の9項目を重視する。

1.利用者が中心となって計画する輸送計画
2.一貫した価格設定ポリシーが実現する包括的なモビリティ
3.持続可能性はモビリティの方式ではなく枠組みの条件に影響される
4.特定の輸送方式が「他の方式よりも持続可能」であることはない
5.公共輸送と民間輸送が平等に競争できる場の提供
6.都市部における乗用車と商用車の重要性
7.十分な充電と充填インフラの設置
8.各都市で差がない良好なビジネス環境と規制
9.官民の利害関係者の協調を実現する効率的な統治

 自動車産業はさまざまな魅力的乗用車と商用車を提供することで、モビリティのクリーン化を推し進める。