日本vs欧州シンクタンク 「バッテリーEV」集中回避か、意地でも推進か? いったいどちらが正しいのか
新たなバッテリー規則

どんな電池でも造れば売れるわけではない。
EV産業の主導権を握るための環境規制法の一環で、ECは2023年から新たな電池規則の段階的導入を進める。
現在の規制はバリューチェーンの最終段階のみを対象とするが、原材料採掘等の初期段階やリサイクル材使用率等も含めたサプライチェーン全体のCO2排出量を定量的に管理し、削減する方向で検討中だ。
日本では、トヨタ自動車・パナソニック連合や豊田通商が東京大学と連携し、低炭素かつ低コストでリサイクルもしやすい「グリーン電池」の開発を目指している。
リサイクル関連技術では欧州が先行しているものの、豊田通商は「現時点では再処理するコストより、含んでいる資源価値のほうが安いので採算が合わない」と否定的に評価する。
欧州が仕掛けた経済戦争に勝ち残るためには、日本産業界のお家芸「カイゼン」が成果を発揮するだろう。
経産省 今後の取り組みの骨子

経済産業省は2022年4月、蓄電池産業戦略の中間とりまとめを公開した。過去の反省を踏まえた今後の取り組み計画の骨子は次のとおりだ。
・液系リチウムイオンバッテリーの製造基盤への大規模投資への支援
・海外展開を戦略的に展開し、グローバルプレゼンスを確保
・次世代電池を世界に先駆けて実用化し、次世代電池市場を着実に獲得
もう少し戦略的な姿勢を期待したいが、「官が独走し、産学が抑える」欧州の官産学連携よりも、「産学が頑張り、官が追認する」日本の産学官連携のほうが健全なのかもしれない。
ただし、官と政治も一枚岩ではない。直近の各国の脱炭素宣言は官を強引に押し切った政治的判断だが、約束した本人たちは2030年には政権にいないのだから無責任な約束ができるのだろう。
グリーン水素

EUバッテリー同盟に続いて、2020年3月、欧州委員会は、欧州クリーン水素協定を発効した。
協定は、2030年までに再生可能水素と低炭素水素製造秘術を開発し大規模に活用することで産業界、モビリティ分野、その他分野での脱炭素を促進し、産業界の欧州における主導的立場を維持することを狙う。
この協定は欧州水素戦略、特に投資ガイダンス、が定める行動計画を実行するために重要な役割を果たす。水素利用の研究と産業の革新はEUでの優先度が高く、多額のEU資金を受けており、水素関連プロジェクトは、欧州委員会が支援する官民共同の燃料電池水素共同実施機構により管理されている。
水素には図の4種があり、最終的にはグリーン水素に絞る予定だが、当面はターコイズ水素やブルー水素の使用も認めている。
輸送システム改革とは

2020年12月、ECは、EUの輸送システムを変革する政策パッケージとして持続可能でスマートなモビリティ戦略を提示した。
欧州グリーンディールの目標を実現するために、欧州の運輸部門は2050年までにCO2排出量を90%削減しなければならない。モビリティ戦略は、主要10分野で今後4年間に採用される予定の行動計画における82種の活動と組み合わせられる。この戦略の主な方向は三つだ。
・既存車両を低排出またはゼロ排出車と置き換え、再生可能燃料の使用も増やすことで化石燃料への依存を減らす
・国内の道路貨物輸送の75%を鉄道や水上輸送に
・外部コストの内包化。定量的には、2030年までに欧州道路を走行するゼロ排出車を3000万台に増やし、自動運転車も大幅に増やすことを目標とするが、欧州自動車工業会(ACEA)はこの目標には現実性がなく、充電ステーションのもっと野心的な増設が必要だと主張している
ECは、2050年までには、欧州のほぼすべての乗用車とバン、バスおよび新型のトラックがゼロ排出となると予測している。自動車分野でこの戦略を実現するためには、乗用車とバンだけではなく、トラックとバスのCO2排出量規制もさらに強化する必要があり、より厳しい大気汚染物質排出量基準Euro 7への移行が予定されている。
国際道路輸送連盟は、この戦略は長距離バスを壊滅させる危険性があり、今後10年以内にディーゼルを代替する燃料が必要になる、と警鐘を鳴らす。
ここで注意すべきことは、第一に、欧州委員会は「ゼロ排出」を究極の目標とするが、「電動化」とは言っていない。「実質ゼロ」や「炭素中立」が達成できれば、手段は問わない。電動化に結び付けたのはEUの経済戦略、ということになる。
第二に、2050年の「輸送外部費用の内包化」だ。輸送外部費用とは、事故、大気汚染、気候変動、騒音、上下流の工程、生息地の被害、渋滞等、環境全般への影響に関連する費用を指し、EU28か国が負担する外部費用のうち53%を道路貨物輸送、37%を海上貨物輸送が占める。
この費用総額を「輸送量×輸送距離」で割ると、道路貨物輸送分野が34ユーロ/100万トンキロ、海上輸送分野は13ユーロ/100万トンキロとなる。これらの外部コストを2050年以降は利用者が負担するということだが、誰が利用者で、負担割合はどうするのか、課題山積だろう。