熊本市民が愛した“レトロ顔”が引退!「推し電」1位の名車、その激動の生涯! 福岡を支え、熊本を救った連接車の軌跡をたどる

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熊本市電の「5014号」が営業運転を終えた2025年2月、その歴史を振り返るとともに、5000形連接車が熊本の交通を支えた過程が浮かび上がる。高度経済成長期の福岡から熊本へと引き継がれたこの車両は、都市の発展と共に移り変わる交通事情に柔軟に対応し、市民の生活を支え続けた。特に連接車としての特性が、混雑解消や冷房車導入の効果と相まって、熊本市電の存続に大きく貢献したのだ。

日本初の「超低床電車」導入

ドイツから輸入された超低床電車・熊本市電9700形。実は5000形とほぼ同サイズ(画像:若杉優貴)
ドイツから輸入された超低床電車・熊本市電9700形。実は5000形とほぼ同サイズ(画像:若杉優貴)

 存続が決まった熊本市電は、その後も近代化を進めた。1980(昭和55)年には電車接近表示装置を導入し、1982年には新造車として日本初となるVVVFインバータ制御の交流モーターを採用した冷房連結電車(実際には連結しての定期運行は未実施)を導入したほか、1985年、1992(平成4)年にも新型車両を相次いで導入した。近代的な市電は、城下町のシンボルとなった。

 そのなかで、熊本市は1990年から次世代の路面電車に生まれ変わるべく、欧州の「LRT」の研究を開始した。「LRT」とは「Light Rail Transit」(ライト・レール・トランジット)の略で、路面電車を中心とした中小容量規模の鉄軌道路線を指し、主に「LRV」(Light Rail Vehicle、ライト・レール・ビークル)と呼ばれる乗り降りしやすい超低床車両を用いて運行されることが特徴だ。

 1990年代当時、日本国内では超低床LRVを製造した実績のある企業はなく、熊本市は国内外のさまざまな企業と協議を進めた。その結果、選ばれたのがドイツ・ボンバルディア製のGTシリーズ・ブレーメン型と呼ばれる電車だった。同型は1990年に発表されたLRVで、すでにほぼ同じ設計の車両がブレーメン市やベルリン市などドイツ各地で活躍していた。実は、このブレーメン型には5000形と車長がほぼ同じタイプがラインナップされていた。既存車両と同じサイズだったことは、日本初の超低床電車導入の大きな後押しになっただろう。

 こうして1997年8月、日本初のLRVとなるブレーメン型電車・熊本市電9700形がデビューした。日本初となった熊本の成功を受け、その後、超低床LRVは全国各地の路面電車で導入されることとなる。西鉄1000形――熊本市電5000形は、日本のLRV普及のきっかけの1つを担っていたといえるだろう。

 その後、熊本市電では超低床電車の導入が進むにつれて5000形の廃車が進み、2009年には西鉄カラーに復元された5014号だけが残った。5014号は2009年に故障して運行を休止したが、古巣の西鉄に運ばれて全面的に修理され、2016年に再復帰した。2024年6月には熊本市電開通1000周年を記念して行われた「熊本市電推し電総選挙」で、熊本生え抜きのレトロ電車や超低床LRVを抑えて1位になった。

 しかし、熊本市電は2025年2月7日に「部品の入手が難しくなった」として5014号の引退を発表。2月22日をもって、西鉄1014号から数えて約70年近い活躍に幕を下ろした。

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