EVは「大雪で終了」「立往生で凍死」という暴論はなぜ無くならないのか? 感情的にならず、まずは科学的事実・雪国オーナーの声に向き合え

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「電気自動車は電力不足や大雪のときは使えない」「立ち往生したら凍死する」などという声がある。実際はどうなのか、解説する。

電力不足の解消にも役立つEV

オーストラリアでV2G対応の充放電設備に接続された日産リーフ(画像:日産自動車)
オーストラリアでV2G対応の充放電設備に接続された日産リーフ(画像:日産自動車)

 冒頭で述べた通り、スズキの鈴木社長が節電要請との矛盾を指摘する一方で、EVへの移行に注力する米ゼネラルモーターズ(GM)のマーク・ロイス社長はビジネスインサイダーのインタビューで、

「EVはV2Gにより電力網への負担を減らせる」

と真逆の趣旨の発言をしている。V2G(Vehicle to Grid)は、電力網の需給が逼迫した際などに、EVの大きな蓄電池にためた電力を電力網に供給する機能だ。V2Gはこれまでも日本を含め世界各国で実証実験が進められていて、EVの普及と合わせて実用化されつつある。

 V2Gを語る際によく「車を使う際はどうするのか?」と指摘されるが、2018年に公開された論文「データから読み解く自動車の使われ方の変化~全国道路・街路交通情勢調査自動車起終点調査の分析から~」によると、国内の自家用車は最も需要が増える朝夕でも約1割しか使用されておらず、残りの約9割は駐車中(あるいは運用休止中)とされている。自宅や勤務先などの駐車場に充放電設備を設置することでこれらの車を活用し、需要が少ない時間帯に充電、需要が逼迫した際に放電し、電力網への負担を減らすことが可能となる。

 現時点での課題としては、充放電設備の設置費用に100万円程度(充電のみなら数万円~)かかる点だが、例えばEVに独自の補助金を提供している東京都では、V2H(Vehicle to Home = EVから自宅への電力供給)機器にも10割近い補助金を提供。東京都在住のEVオーナーであれば、ほぼ自己負担なしでEVの蓄電池にためた電力を自宅で使用可能となる。

 加えて充電するための普通充電器や200Vコンセントについても補助金が用意され、1割程度の費用負担で設置できるほか、管理組合での合意形成から支援したり、初期費用を無料にしたりする設置業者も増えており、東京都を中心に全国の集合住宅や月決め駐車場、公共施設・商業施設の駐車場などで設置が進んでいる。

 一方で豪・南オーストラリア州の送配電事業者であるサウス・オーストラリア・パワー・ネットワークスは日産自動車などと協力し、2022年12月にEVとV2Gを使った独自の新サービスを提供開始。需要が少なく電気料金が安い時間帯に充電し、逆に需要が逼迫する時間帯に放電することで、利益が得られるようになった。実際にこの仕組みを利用している南オーストラリア州の「バリークロフト ワイナリー」では、これまで年間6000豪ドル(約54万円)の電気代がかかっていたのが、太陽光発電を導入することで年間2000豪ドル(約18万円)に削減、さらにEVとV2Gを導入することで逆に年間2500豪ドル(約22万円)の利益が出せるようになったという。

 仮にV2GやV2H設備に100万円かかっても、5年未満でもとが取れる計算だ。もちろん太陽光発電の設備にも初期費用がかかるが、一般的に5~10年程度でもとが取れるとされており、合計でも10~15年程度でもとが取れる計算となる。

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