EVは「大雪で終了」「立往生で凍死」という暴論はなぜ無くならないのか? 感情的にならず、まずは科学的事実・雪国オーナーの声に向き合え
雪国に住むEVオーナーの声と豪雪地帯でのEVシェア
国内で量産EVが一般発売されてから10年以上がたち、SNSなどで情報を発信する雪国のEVオーナーも増えている。例えば数年にわたり日産リーフやテスラ・モデル3を乗り継ぎ、Youtubeで生の声を届ける雪国のEVオーナーは
「過去に内燃機関車で一酸化炭素中毒になりかけたことが、EVに乗る理由のひとつ」
という。加えてEVなどに使われるモーターはミリ秒単位での緻密な制御が容易であり、積雪路や上り勾配などで「二輪駆動のEVでも四輪駆動の内燃機関車に匹敵するほど」グリップが向上することで、そもそも「立ち往生するリスクも下がる」としている。
毎年のように一酸化炭素中毒による死亡事故が報道されながらも、一向になくなる気配がない。原因は明確ながらも発生時に気付くことが難しく、根本的な対策の難しさを証明しているといえる。2022年12月に日本海側を襲った大雪の影響で停電が発生した際も、暖を取るために自宅前に置いた内燃機関車の自動車内にいた女性が亡くなるという痛ましい事故が発生した。一酸化炭素中毒とみられる。
一方で時を同じくしてSNS上では、大雪に伴う立ち往生で約18時間にわたり足止めされたテスラ車が、一酸化炭素中毒を一切心配することなく車内で暖房をかけながら動画を観賞し、立ち往生解消後はそのまま出発できたという報告も。SNSでは科学的な根拠や統計データなどのエビデンスを一切考慮せずに「凍死する」などと指摘されているが、前述の通り電池の残量が半分程度あれば暖房を使って1日程度、シートヒーターのみであれば数日間は安全に過ごせることが実証されている。
また、雪国を含む世界で、数百万台のEVが販売された現在でも、筆者の知る限りEVが原因となった凍死事故は一件も報告されていない。雪国でもEVが受け入れられていることは販売状況からも明らかであり、例えばノルウェー道路連盟(OFV)の集計によると、北欧ノルウェーではBEVが2022年の新車販売の79.3%を占めている。
一部では「ノルウェーは雪が少ない」「北部や雪の多い地域ではEVシェアが下がる」という声もあるが、間違いだ。例えばWeather Sparkの統計によると、ノルウェー北部の都市トロムソでは1月の平均降雪量が412mmに達するが、同地域でもEVシェアは78.3%(OFVより)と同国全体と遜色ない。
積雪量の多いトロムソでは確かに2021年までは他の地域と比べてEVシェアが低かったものの、これは積雪量によるものではなく、他都市との距離が長いにもかかわらず、充電インフラの整備が遅れていたためだ。トロムソでは他の国や地域と同様、乗用車だけでなくタクシーや大型トラックなど、商用車でのEVの採用事例も増えている。
一方で、日本で最も降雪が多いとされる山形県において、1か月あたりの最大平均積雪量が最も多い新庄市では301mm(Weather Sparkより)となっている。気温の差について指摘する声もあるが、ノルウェーでも寒波が来れば氷点下20度以下まで下がることも珍しくない。無論、さらに低温となるフィンランド、スウェーデン、カナダなどにも多くのEVオーナーがいる。
山形県新庄市を超えるトロムソのような豪雪地帯でもEVが売れている事実や、実際に雪国でEVに乗っているオーナーの声を無視して、「寒冷地や雪国では使えない」「立ち往生したら凍死する」と叫び続けるならば、本来なくせるはずの一酸化炭素中毒による死亡事故も、なくせないだろう。印象や想像だけでなく、実際のデータや科学的なエビデンス、オーナーの生の声に耳を傾けてほしいと、切に願う。