なぜホンダは“道路問題”に踏み込んだのか? 橋の6割が老朽化する時代、インフラ崩壊に抗う「最後の担い手」
道路老朽化の進行

日本という国は、絶えず災害とともに歩んできた。近ごろは局地的な豪雨が当たり前のように降り注ぎ、気候の変化がもたらす影響は、もはや無視できない段階にある。こうしたなかで、かつて当たり前のように築かれた橋や道路、水道といった社会基盤の衰えが、各地で静かな影を落とし始めている。
とりわけ、道路の傷みは隠しようがない。ひび割れや陥没といった不具合が、いたるところで見つかっている。高度経済成長期に一斉に整備された膨大な道路網がいま、一斉に寿命を迎えようとしているのだ。これまでの作る時代から守る時代へ。私たちが直面しているのは、これまでの管理の手法では追いつかないほどの、膨大な劣化の波である。
国土交通省の数字を見れば、事態の重さがよくわかる。日本にある約73万もの橋のうち、建設から50年を数えるものは、2032年度にはおよそ6割にまで膨れ上がる。厳しい環境にさらされる場所では、すでに損傷も現れ始めている。
道路は、日本の産業を根底で支える基盤そのものだ。だが、この足元が揺らげば、安全も効率も保つことはできない。これまで富を生んできたはずの道路という資産は、いまや莫大な補修費を求め続ける、重い負担へと姿を変えつつある。
路面が悪くなれば、物流のコストは跳ね上がり、車両の傷みも早まる。それは結果として、産業全体の体力を奪っていくことになるだろう。移動の自由があることを当たり前として築かれてきた私たちの社会は、維持しきれない道路という現実を前に、重い問いを突きつけられている。
点検体制と負担増

道路の老朽化が進むなか、補修が追いつかない区間は増え続け、維持管理の重みが増している。国土交通省は2017年度から定期点検に乗り出し、2022年度からは2巡目へと入った。点検結果をまとめたデータベースの公開も進んでいる。
だが、現場に目を向ければ人手不足という現実が重くのしかかる。これまでの目視や巡回といった手法だけでは、広大なネットワークを支えきれない場面が目立ってきた。とりわけ山地の多い日本では、道を通せば橋やトンネルが必要になる。
こうした道路橋の9割を担っているのは、実は地方自治体だ。膨大な労力を要する管理の現場だが、市区町村の予算や人員には限りがある。橋や道を診るための土木技術者を、十分に抱えられない自治体は少なくない。改善の動きはあるものの、いまだ半数を超える村では専門の技術者がひとりもいないという。
私たちの社会の成り立ちそのものを左右する事態といえる。人口が減り続けるなかで、かつてのような手厚い管理をこの先も続けていくのは、もはや難しい。交通網が少しずつ、しかし確実にその機能を失っていくことへの懸念は、日増しに強まっている。
自治体が自らの資産の状態さえ把握できなくなれば、行政サービスとしての道を守ることは難しくなる。限られた予算をどこに投じるか。経済的な価値が高い道を優先し、それ以外を縮小していくという判断が、いよいよ現実味を帯びてきた。
移動できる範囲が狭まれば、車の売り先も、荷物を運ぶ網の目も細っていく。維持する力が尽きた地域から、移動の自由を土台にしてきたこれまでのビジネスは、姿を消していくことになるのかもしれない。