日本で「公営バス無料化」は可能か? 専門家が解説する3つの効果とは? 急進左派のニューヨーク市長当選から考える

キーワード :
,
ニューヨーク市長選で当選したマムダニ氏は、34歳で市初のイスラム教徒市長。市営バスの無料化を含む生活支援策は、交通インフラの社会保障化や地域経済活性化にも直結し、日本の自治体財政や公共交通議論に示唆を与える。

生活密着型政策の勝利

日本の公営バス(画像:写真AC)
日本の公営バス(画像:写真AC)

 2025年11月4日に投開票されたニューヨーク市長選で、民主党の急進左派ゾーラン・マムダニ氏(34歳)が当選した。市初のイスラム教徒市長であり、任期は4年間。2026年1月1日に就任する予定である。

 マムダニ氏は生活費高騰対策や富裕層増税、賃貸住宅の値上げ制限、バスの高速化と無料化(市営バスの無料化)、保育支援など、市民生活に直結する政策を掲げた。こうした政策は、特に若年層や労働者層から支持を集めた。

 主要対抗馬は前ニューヨーク州知事のアンドリュー・クオモ氏(無党派)と共和党候補のカーティス・スリワ氏である。クオモ氏は保守層や経済界の支持を受けたが、既成政治の象徴と見なされ、支持回復には至らなかった。

 トランプ前大統領はマムダニ氏を批判し、政府資金提供の停止を示唆した。これに対しマムダニ氏は「政治的腐敗に終止符を打つ」と述べ、ニューヨーク改革への意欲を強調した。

 市民生活は賃貸料高騰や相対的貧困が深刻である。物価上昇に賃金が追いつかない状況のなか、生活に直結する政策が勝利の要因となった。筆者(西山敏樹、都市工学者)はバス専門家として、今回掲げられた「バスの高速化・無料化」に特に注目したい。

都市型公共交通の権利化

ニューヨーク市長選で当選したゾーラン・マムダニ氏(画像:AFP=時事)
ニューヨーク市長選で当選したゾーラン・マムダニ氏(画像:AFP=時事)

「バスの高速化・無料化」の背景には、公共交通と移動を

「権利」

とみなす社会主義的な発想がある。マムダニ氏の政策に象徴されるモビリティへの強い志向は、ニューヨーク市で市営バス無料化が進めば、日本を含む他国でも注目を集める可能性がある。

 政策は単純にコピーすべきではなく、各都市の環境に応じて設計されるべきである。しかし、ニューヨークで成功事例が生まれれば、日本でも無視できないモデルとなるだろう。

・都市経済の持続可能性
・自治体財政
・社会的公平性

という三つの軸で検討する価値がある。

 日本の公共交通事情を見ると、バス事業は公営と民営が混在し、地方自治体の発言力が強い構造である。地方部では自家用車の増加や「2024年問題」により、交通空白地帯の拡大が深刻化している。一方、都市部では同じく2024年問題の影響で人件費が上昇し、燃料費の高騰も相まって運行縮小が進む。

 バス利用率は低下傾向にあるものの、高齢化や免許返納政策により需要回復の可能性も残されている。現行制度のもとで無料化を実現するには、国や自治体による大規模な財源措置が不可欠である。これらの条件が、公営バス無料化の議論の前提となる。

全てのコメントを見る