日本で「公営バス無料化」は可能か? 専門家が解説する3つの効果とは? 急進左派のニューヨーク市長当選から考える

キーワード :
,
ニューヨーク市長選で当選したマムダニ氏は、34歳で市初のイスラム教徒市長。市営バスの無料化を含む生活支援策は、交通インフラの社会保障化や地域経済活性化にも直結し、日本の自治体財政や公共交通議論に示唆を与える。

筆者の意見

ニューヨーク(画像:Pexels)
ニューヨーク(画像:Pexels)

 まず、経済的セーフティネット化である。賛否はあるが、公営バス無料化は推進すべき政策と考える。公営バスの無料化の次に民営バスの支援となる。特に自治体に税金を納める生活者にとっては、無料化の恩恵は大きい。日本では納税によって路線バスを支える感覚が乏しく、乗る人が運賃を払う構造のままでは経営が悪化しやすい。

 無料化は、公共交通の利用促進を通じて交通渋滞や大気汚染の軽減、社会福祉の向上、地域経済の活性化につながる。海外の事例も参考になる。ルクセンブルクは2020年に国全体の公共交通を無料化した。エストニアの首都タリンでは、市民に限り公営バスや路面電車、トロリーバスの運賃を無料にしている。フランス北部のダンケルクも2018年に公営バスを無料化した。これらの都市では、無料化後にバス利用者が増え、マイカーからバスへの転換が進んだ。

 もちろん、無料化には税金や企業の寄付などの財源が必要となる。タリンでは個人所得税を財源に、人口と税収の増加を狙ってさらに無料化を拡大しようとしている。ダンケルクでは事業税の上乗せで費用を賄った。こうした政策的工夫によって、バス無料化は実現可能である。

 移動は生活の基盤であり、教育や雇用、医療へのアクセスにも直結する。日本の法学者の中には、基本的人権の平等に

「移動の権利」

を位置付ければ、公共交通の推進・発展にもつながるという論を示す者もいる。非正規雇用者、高齢者、単身世帯にとっては、移動コストの削減が生活支援策の一部となり得る。路線バスの無料化は、交通インフラの社会保障化という政策的意義を持つ。社会的効果も含め、日本でもまず公営バスから無料化を検討すべきだ。そして民営バスへの拡大も段階的に行うことを提案する。筆者は、日本に

「みんなで路線バスを税金で育てる意識」

の醸成を問いかけたい。その一歩として公営バスの無料化を提案したい。

 次に消費・地域経済の誘発効果である。日常的な交通費が消えることで、可処分所得の一部が地域での消費に回る可能性が生まれる。通勤や通学だけでなく、商店街や観光地へのアクセス向上によって地域経済の地産地消も促進される。東京丸の内の回遊バスのように、企業協賛型で運行すれば、路線バス運行費用を上回る集客や購買などの経済効果が期待できる。企業の社会的貢献にもつながる。少しずつみんなで路線バスを支えることで、地域経済に大きな波及効果をもたらすことが可能である。

 条件付き無料化という方法も現実的である。完全無料ではなく、

・特定時間帯
・特定対象層
・交通弱者

に限定して段階的に導入することで、無理のない運用が可能となる。交通系ICカードを決済に導入し、取得した移動軌跡データを活用すれば、利用実態に応じた交通支援策の検討も可能になる。並行してデジタル化を進めれば、コスト削減分を路線バスの財源に転用でき、持続可能性の向上にも寄与する。

 特に公営バスの無料化は、福祉政策にとどまらない。地方交通の改革や自治体間連携のきっかけにもなり得る。移動が活発になれば地域交流も促進され、従来にはないにぎわいを街にもたらす可能性がある。まず公営バスを

「地域経済循環の血流」

と位置付け、観光や医療、教育との統合的運用を進めれば、経済効果はさらに拡大するだろう。

全てのコメントを見る