日本で「公営バス無料化」は可能か? 専門家が解説する3つの効果とは? 急進左派のニューヨーク市長当選から考える
筆者への反対意見

これまで賛同する意見を示してきたが、その一方で反対意見が存在することも理解している。公平な視点から、批判的な論点も整理する。
まず、無料化に伴う財源問題が懸念される。運賃収入の消失は、赤字路線のさらなる悪化を招く可能性がある。地方交付税に依存する構造が固定化し、自治体の自立性や自律性が損なわれる恐れもある。財政責任の所在が不明瞭になる点も問題だ。海外事例では、個人負担型と企業負担型が混在し、一長一短がある。筆者は企業の社会貢献としての投資型負担を重視する。企業のPR効果も見込め、人口減少や少子高齢化が進む日本の状況でも現実的と考える。
次に、無料化によるモラルハザードも指摘される。乗客が乱用したり混雑が激化したりすると、本来の交通弱者支援の機能が損なわれる可能性がある。乗客マナーの悪化や定時運行の阻害、運転士の負担増も現実の課題だ。無料化による利便性向上には、こうした運用上の対策も不可欠である。
路線バスの無料化には都市と地方の再統合というメリットがある一方で、地域間格差の拡大も懸念される。タリンのように人口増加と税収増を背景に無料バスを拡充できる都市があれば、弱肉強食の構図が生まれる可能性がある。財政力のある都市部では導入や拡大が可能となるが、過疎地域では個人や企業の支援が得られず、運行自体が維持困難になる場合もある。結果として、無料化できる都市と公共交通が失われた地方との格差が広がるリスクが存在する。都市と地方の統合効果と地域間格差の懸念は、実際に試行してみないと見極められない部分も多い。
さらに、公営バス無料化が進むと民営バス市場への影響も無視できない。無料化拡大は民間事業者の参入意欲を削ぎ、市場を圧迫する可能性がある。段階的な民営バス無料化でも、手間やコストの増加で撤退する事業者が出ることも想定される。ルクセンブルクの事例でも、無料化は政治的パフォーマンスが優先され、交通事業の持続性が軽視されるリスクが指摘されている。公営バス無料化は、民営バスとの共存を意識せずには成立しない。
加えて、無料化よりも「効率化」を優先すべきとの指摘もある。公営バスを含め国内の路線バス事業は、2024年問題に象徴される人材不足が深刻だ。電動化や自動運転、オンデマンド交通の推進など、構造改革に重点を置くべきとの声も根強い。無料化は一時的な制度疲労の隠れ蓑にすぎないとの批判もあり、慎重な議論が求められる。