率直に問う! 北陸本線特急、敦賀以東「直通復活」は可能か? JR西社長・大阪~和倉温泉間運行検討発言から考える
伊豆箱根鉄道の戦略、広告料としての役割

現状のままでは、特急の直通運転復活は難しいが、新たな視点を提供すれば、不可能ではないと考える。
参考になる事例がある。それは、東京駅と伊豆急下田駅・修善寺駅間で運行されている特急「踊り子」だ。修善寺発着列車の場合、東京駅から熱海駅まで104.6kmの区間はJR東日本東海道本線を走り、熱海駅から三島駅まで16.1kmはJR東海東海道本線を走る。そして、三島駅から修善寺駅まで19.8kmは伊豆箱根鉄道駿豆線を走行する。
修善寺発着の踊り子に関しては、伊豆箱根鉄道が重要な役割を果たしている。同社は行政の会議で、
「踊り子はJRの車両のため車両使用料をJRに支払うことから、踊り子単体としては赤字だが、東京駅や品川駅、横浜駅というターミナル駅に『修善寺行き』という行先が出ることに対する広告料だと思っているので、赤字でも続けていかなければ」と説明し、それを受けて沿線自治体である伊豆市も「東京駅に『修善寺行』はぜひ残したい。ローカル鉄道を使った小さな旅というようなものを地域の中で行っていければと思っている」
と反応している(「令和5年度 第3回伊豆市地域公共交通会議 議事要旨」より)。
これらの発言からわかるのは、伊豆箱根鉄道にとって踊り子は広告手段であり、沿線地域にとっては観光振興の重要な役割を果たす列車だということだ。また、JR東日本にとっては、修善寺発着の踊り子は三島駅や伊豆箱根鉄道駿豆線を利用する需要を取り込むことで、利用者数を増やす効果がある。ただし、熱海駅での伊豆急下田駅発着の編成との解結や連結作業、JR東海とのダイヤ調整の手間が発生する。
一方、JR東海にとっては、東京駅から熱海駅間で並行する東海道新幹線の乗客を減らす可能性があるため、修善寺発着の踊り子は懸念材料だった。かつては、国鉄時代から使われてきた185系の引退時に踊り子が廃止される可能性も取り沙汰されたが、2021年3月13日のダイヤ改正でE257系に置き換えられた後も、踊り子は存続することとなった。