インドのビール王が築いた「キングフィッシャー航空」はなぜ破綻したのか? 設立6年でシェア20%獲得も、まさかの「給料未払い」に陥った理由とは?

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キングフィッシャー航空の興亡は、急成長と破綻の教訓を示す壮大な物語だ。設立から6年で20%の市場シェアを獲得したものの、過度な投資と不適切な経営により、2012年に運行を停止することになった。この事例は、ビジネスにおけるリスクと顧客ニーズの重要性を再認識させるものとなった。

インド航空の税負担、最大30%の衝撃

キングフィッシャー航空が運航を停止した後の閉鎖されたカウンター(画像:Arne Huckelheim)
キングフィッシャー航空が運航を停止した後の閉鎖されたカウンター(画像:Arne Huckelheim)

 キングフィッシャー航空の経営破綻は、過度な投資によって財務状況が悪化するという、これまでにも見られたパターンだった。しかし、カリスマ経営者として知られていたマリヤ氏が率いていたため、インド国内では大きな社会問題に発展した。

 批判は同社の経営陣だけでなく、インド政府の航空行政にも向けられた。実際、2010年代前半のインドの航空業界に対する規制は非常に厳しく、「規制大国」とやゆされる日本よりも厳しい内容を含んでいた。例えば、次のとおりだ。

・航空会社は国営のインド石油から手数料を払って燃料を購入する必要があり、インドルピーが下落してコストが上がっても他の供給元を使うことはできない。
・インドの航空会社が国際線を運航するには、国内線を開始してから5年以上の実績が必要で、さらに20機以上の機材を保有しなければならない。
・インドの航空会社には外資の出資が一切禁止されている。

 特に国際線参入にかかる規制は、キングフィッシャー航空が経営悪化してエアデカンを買収する要因のひとつとなった。同社が2005年に就航してからまだ5年経過していなかったため、国際線を運航するためには、運行歴のある会社を買収せざるを得なかったのだ。エアデカンは2003年に創業したため、ちょうど5年を迎えていた。この規制に対しては、

「外国からはインドへの航空便が比較的多いのに、自社はなぜ利益率の高い国際線に参入できず、相次いで新規参入する利幅の薄い国内線しか運行できないのか」

という批判が相次いだ。

 また、インド政府や地方政府が航空会社に課した税負担も非常に重かった。当時、地方政府は燃料価格に対して独自の税を設定する権限を持ち、その税率は最大30%に達していた。これは世界最高水準で、ニューデリーでのジェット燃料価格は1Lあたり77セントと、ニューヨーク(52セント)やシドニー(62セント)を上回っていた。

 さらに、空港使用料も高く、2016年にはニューデリーのインディラ・ガンディー国際空港でのエアバスA330からの収益が世界で2番目に高く、ヒースロー空港に次ぐものだった。かつて「世界一高い」といわれた成田空港よりも高いことからも、その高さがわかる。

 これらの税負担の高さは、多くの航空会社の経営を圧迫した。こうした規制や負担は、当時国営だったエア・インディアの経営を守るためだったとされているが、皮肉にもそのエア・インディアも赤字に苦しんでいた。

 2010年代前半、インドの航空業界はキングフィッシャー航空を含め、多くの会社が経営難に陥り、世界有数の成長市場であるはずのインドで航空業界が苦境に立たされていた。その象徴的な出来事が、キングフィッシャー航空の破綻だったといえる。

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