インドのビール王が築いた「キングフィッシャー航空」はなぜ破綻したのか? 設立6年でシェア20%獲得も、まさかの「給料未払い」に陥った理由とは?

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キングフィッシャー航空の興亡は、急成長と破綻の教訓を示す壮大な物語だ。設立から6年で20%の市場シェアを獲得したものの、過度な投資と不適切な経営により、2012年に運行を停止することになった。この事例は、ビジネスにおけるリスクと顧客ニーズの重要性を再認識させるものとなった。

キングフィッシャーの華麗な歴史

フライ キングフィッシャー ロゴ2011(画像:own work)
フライ キングフィッシャー ロゴ2011(画像:own work)

 キングフィッシャーを製造するユナイテッド・ブルワリー社は、1915年に五つの小さな蒸留所が合併して誕生した。老舗企業ではあるが、キングフィッシャーブランド自体は1978年に始まったため、実はそれほど古い歴史を持っているわけではない。このブランドを設立したのが前述のビジェイ・マリヤ氏だ。

 彼は1960年代から1980年代にかけて、インド国内で多くの蒸留所や食品加工会社を所有していたビッタル・マリヤ氏の息子であり、サラブレッドといえる。しかし、彼はそこで安住することはなく、刺激的なブランドを作りたいという野望を常に抱いていた。既存のブランドでは強い印象を与えられないと考えた彼は、カワセミ(Kingfisher)のラベルを描いたキングフィッシャーブランドを立ち上げた。

 インドでは酒業の広告や宣伝が禁止されていたため、キングフィッシャーはビキニ姿の女性が映る「キングフィッシャー水着カレンダー」を使うなど、酒そのものではなく楽しさやクールさを演出するイメージ戦略を採用。これにより、知名度を一気に高め、瞬く間にインドのビール市場でシェア1位を獲得した。

 ファッション、メディア、スポーツと結びついて成功したマリヤ氏は、「楽しい時の王(King of Good Times)」や「インドのリチャード・ブランソン」と呼ばれるようになった。彼は世界各地に40以上の邸宅、250台のクラシックカー、特注の航空機やボートなどを所有し、その豪華な生活はインド国民の憧れの的だった。

 なかでも日本で有名なのが、2008(平成20)年から2018年にF1に参入していた「フォース・インディア」F1チームだ。このチームは優勝こそなかったものの、実力者が在籍し、多くの上位実績を残したため、多くのモータースポーツファンに強い印象を与えた。

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