アジアの伝統思想が導く現代社会のレジリエンス【短期連載】なぜいま岡倉天心なのか(1)
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アジア伝統の強さと柔軟さ
今日、日本は多様な変化に直面し、旧来の手法が通用しなくなっている。また、災害の激化や国際紛争の長期化など、モビリティ産業にもさまざまな課題への対応が求められている。そんななか、東洋美術研究家であり思想家の岡倉天心(1863~1913年)の哲学は、私たちに新たな指針を与えてくれる。天心の「柔弱」の思想は、強い力に耐え、変化に適応する力「レジリエンス」の重要性を説いている。彼が提唱する高付加価値の自然・文化体験型観光や伝統文化保存の重要性は、コロナ以降の観光産業の変化とも合致する。本連載では、天心の思想から日本とモビリティ産業の未来を探り、変革の道筋を明らかにしていく。
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災害の激甚化や国際紛争の長期化など、予期せぬ事態に直面し、従来の手法が通用しなくなっている。それは、モビリティ産業にも当てはまる。
こうしたなかで、筆者(坪内隆彦、経済ジャーナリスト)が注目するのが、アジアの伝統的な価値観を称揚した
「岡倉天心」
の思想である。例えば、天心は世界に向けて英文で著した『The Book of Tea(茶の本)』(1906年)において、「剛強」に対する
「柔弱」
の優位性を説いた、中国の古代思想家・老子の思想を紹介している。「しなやかさ」があるからこそ、強い力にも耐えられる。弾力性があるからこそ、自在に形を変えて適応できる。この「柔弱」の思想こそ、変化の時代に適応できる
「レジリエンス(復元力)」
を支えることができるのではないか。
変わる欧米観光客の志向
一方、コロナ後の世界ではインバウンド(訪日外国人)の在り方も変わっていくと見られている。日本を訪れる欧米の観光客の志向が大きく変化しつつあるからだ。
旅をすることによって、自分の内面を豊かにしたり、自分を変えるような体験をしたりすることを求める観光客も増えている。高付加価値な自然文化体験型観光としての
「アドベンチャーツーリズム」
の拡大もこのトレンドを明確に表している。
アジアの文化的、精神的価値は、このトレンドにも合致する。天心こそ、アジア諸国の伝統文化の価値を称揚するだけではなく、寺社などの
「文化財の保存の必要性」
を強調した先駆者なのである。高付加価値旅行時代には、観光インフラの開発以上に、人間の営みとしての文化を正しく継承すること求められているのかもしれない。1903(明治36)年の『The ideals of the East(東洋の理想)』で
「日本はアジアの思想と文化の貯蔵庫である」
と天心が喝破したように、今なお日本にはアジアの伝統思想が生きており、世界に誇る多様な伝統文化が残されている。