BEV・FCVだけが本当に「脱炭素の切り札」なのか? 欧州主導「緑のルール」を冷静に考える
ウクライナ侵攻が及ぼす影響
欧州は車だけでなく電力の脱炭素化にも熱心で、石炭火力発電から太陽光発電、風力発電への置き換えが進んでいる。その一方、福島原発の津波被災以降は、ドイツ、オーストリア、ベルギー、スイスなどが原子力発電からの離脱を進めている。
火力発電と原子力発電は、発電量が不安定な太陽光/風力発電を支えるベース電力だが、CO2を発生させないのは原子力と水力発電であり、欧州連合(EU)がグリーン電力認定を検討している。なお、地形と降水量に恵まれたノルウェーなどは水力発電がベース電力となっている。
2021年のヨーロッパでは期待していたほど風が吹かず、ガス火力発電の需要が増えたほか、電力総需要の約4割を依存するロシアからの供給も減り、天然ガスの需給が逼迫(ひっぱく)。2月9日には「アメリカのバイデン政権の要請を受け、日本政府が 液化天然ガス(LNG)を欧州に融通する方針を固めた」との報道があった。
ロシアのウクライナ侵攻開始を受けて、天然ガス価格は急騰。ロシアからのガス供給に変化がなく、欧州の対ロシア経済制裁対象にエネルギー分野が含まれなかったことなどから、現在は急騰前の価格に落ち着いているが、予断を許さない状況だ。
電気自動車(EV)用モーターの磁石に使われる、ネオジムやジスプロシウムの6割は中国産だ。天然ガスはロシアやイラン、カタール、米国など多くの国々が持っているが、2020年の輸出額は、ロシアが2位のカタール、3位の米国を大きく引き離して圧倒的に多くなっている。今後のロシアの対ウクライナ戦略によっては、天然ガスが政治的戦略物質となる可能性もある。
脱炭素を背景に、日本、米国、欧州連合(EU)の石油・天然ガス開発企業が事業を縮小する一方で、中国、ロシアや石油輸出国機構(OPEC)諸国は世界各地の石油・天然ガス資源を次々と獲得している。
原油からは液化石油ガス(LPG)、ナフサ(樹脂や合成ゴムの原料)、ガソリン、灯油、軽油、潤滑油、アスファルトが一定の比率で製造される。多少は調整できるものの、ガソリン比率はゼロにできない。不要なガソリンを捨てることはグリーンではないのだ。