BEV・FCVだけが本当に「脱炭素の切り札」なのか? 欧州主導「緑のルール」を冷静に考える

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脱炭素化が進む自動車業界で、日本は一体何をすべきか。

BEVの利点は何か

ガソリン車・電動車CO2排出量比較(画像:トヨタ自動車)
ガソリン車・電動車CO2排出量比較(画像:トヨタ自動車)

 BEVは電動のため、走行中にCO2を一切排出しない。ではその電力はどうやって作るのだろうか?

 現在、世界の発電は火力や原子力が主だが、今後、脱原発を掲げる国も少なくない。太陽光と風力発電は再生可能でクリーンだが、いつでもどこでも発電できるわけではなく出力が不安定なため、需要に応じられない場合がある。

 太陽光パネルや風力発電装置などを造る際にはCO2を排出する。トヨタ自動車がIEAのデータを基に、車両とエネルギーの製造も加えて試算した結果を図に示す。条件次第ではPHV/HVがBEVよりクリーンな場合もある。

 BEVの利点は次の通りだ。

・脱炭素:最大の利点だが誰もが確実に享受できるわけではない。一般消費者はあまり興味がないだろう

・エネルギー効率:製造時と使用時を合わせた総合効率はBEVが77%、FCVが30%、ICEが13%と圧倒的に高い

・スマートグリッド:電力網(グリッド)にBEVをつないでスマートグリッドを構成すると再生可能エネルギーの出力変動を平準化することができる

・トルク特性:ゼロ回転でも最大トルクを発生するモーターの特性とレスポンスのよさは日常走行で使いやすく、エンジン車では得られない利点だ

・無尽蔵なエネルギー:再生可能エネルギーは無尽蔵だが、化石燃料はいつか枯渇する。再生可能エネルギーを優先的に使用することは重要だ

・優遇政策:車両価格が高いデメリットの緩和策で、EV購入やインフラ設置に対する補助金、減税、免税などのEV優遇策を講じている国は多い

 中国の大都市では渋滞や粒子状物質(PM)による大気汚染を回避するため、エンジン車へのナンバー発行枚数を制限している。そのため、高額で売買されている。BEVには無条件・無料でナンバーが交付されるため、消費者にとって大きなメリットだが、これは中国だけの特殊事情だ。

 電力料金の明細を見ると毎月の電力費には、脱炭素化実現のために総額の10%程度の「再エネ促進賦課金」が含まれている。これは短期的に負担が増える再生可能エネルギーを、電力会社が固定価格で買い取ることを国が支援する制度で、太陽光発電などを設置した人の利益に充てられる。

 環境省によると賦課額は今後も増加し、2030年頃をピークに減少に転じ、2050年には廃止される予定だ。BEVを所有していなくても余分な電気代を払い続けることになる。

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