「うちのドライバーは馬鹿ばかり」 中小社長の暴言から浮かび上がる、運送業界の構造的病理
筆者ががく然とした、ある社長の一言
かつて筆者(坂田良平、物流ジャーナリスト)は、配車システムの営業として、1年半かけて3000社以上の物流企業、荷主企業を訪問した。
「うちのドライバー、ばかばっかりだからさ」──これは、訪問した先の運送会社社長や役員から言われた言葉である。
私は売り込みで訪問しているわけだから、もちろん断るための方便でもあるのだろう。「だから、あなたの売り込もうとしている高度なシステムは、とてもうちのドライバーは使いこなせませんよ」と言葉は続くのだ。
この言葉を発してきたのは、1社だけではない。数十社に及ぶ。
「いやいや、社長と話しているとすごく頭の良い方に思えるのですが。そんな社長のもとで働く社員さんたちが、社長の言うような方々だとは思えませんよ」──私は、社長の言葉に感じた冷たい怒りを隠し、あるとき、このように尋ねたことがあった。
社長の返事は
「だから困っているんだよなぁ……」
だった。この人は、本気でそう思っているのだ。
経営者らの意識に対する疑問と危機感
これは極端な例ではある。だがしかし、稀有(けう)な例ではない。
自社で働くトラックドライバーを低く見る社長や役員は、他のシチュエーションでも何度も見てきた。
プロドライバーには「改善基準告示」という厳しい労務ルールがある。とても複雑なので詳細は割愛するが、例えば、プロドライバーは4時間ごとに最低30分の休憩を取る義務がある。悲惨な交通事故の教訓から、ドライバー自身と安全な交通環境を守るために国が定めたルールが改善基準告示である。
ある中小運送会社社長と雑談をしていたときのことだ。社長は改善基準告示について、しきりに愚痴をこぼしていた。こんなに改善基準告示が厳しいと、商売上がったりだと言うのだ。「でも、改善基準告示を守らないと営業停止等の処分を受けてしまうでしょう?」となだめた私に、この社長は、このように返した。
「でもね、うちのドライバーは守らないんですよ、改善基準告示なんて」