公道の嫌われ者? 日本で「電動キックボード」が普及しないワケ 便利さに見合わぬ道路事情とは
国内でも少しずつ認知度が高まっているものの、本格的な定着にはまだ時間が掛かりそうな「電動キックボード」。普及を阻むものは何か、仏パリとの比較から検証する。
パリと東京、なぜ差が付いたか
電動キックボードをスマートに乗りこなし、街を駆けめぐる。利用者の多くは地元の若者で、市街地のあちこちに駐輪された電動キックボードを気軽に利用している――。筆者はそのような光景を3年前の2019年に訪れた仏パリで見て、電動キックボードが自転車とともに都市のモビリティとして定着しつつあると感じた。
いっぽう東京は、電動キックボードの導入で一歩出遅れた。公道における走行実証実験は始まったものの、通行の安全性や利用者のマナーが疑問視されている。定着するにはまだ時間がかかりそうだ。
なぜパリと東京では、これほど状況が異なるのか。結論から言えば、その理由は自転車移動空間の整備状況の違いにある。では、なぜその違いが生じたのだろうか。その理由を両都市の自転車政策を比較し、実際に東京で電動キックボードを利用して検証してみた。
パリ、自転車に適した道路整備
まずはパリの自転車政策から見ていこう。パリは、電動キックボードが導入される前から、自転車で移動しやすい道路空間の整備に力を入れてきた。パリ市は市街地に自転車道や駐輪場を整備して、レンタサイクル「Velib’(ヴェリブ)」を導入。パリ交通公団(RATP)はMaaSアプリ「Bonjour(ボンジュール)RATP」を使って公共交通と自転車を連携させた。
この背景には、欧州全体で自転車の導入に力を入れる動きがある。欧州では、日本よりも環境や移動に対する意識が高いゆえに、環境に与える負荷が小さく、多くの人が利用できるモビリティとして自転車を見直す動きがあり、自転車道や自転車レーンを整備する都市が増えている。
その点パリは、かつては自転車の後進都市と揶揄(やゆ)された都市だった。同じフランスのナントやリヨンなどの都市よりも自転車移動空間の整備が遅れたからだ。