BEV・FCVだけが本当に「脱炭素の切り札」なのか? 欧州主導「緑のルール」を冷静に考える

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脱炭素化が進む自動車業界で、日本は一体何をすべきか。

欧州で注目される合成燃料

さまざまな水素の製法(画像:IRENA)
さまざまな水素の製法(画像:IRENA)

 前述の通り、現存する約15億台の車の低炭素化も重要な課題だ。既に認可を取得し、消費者が購入、保有、運行しているために大きな改造はできない。

 航空機、鉄道、船舶、大型商用車、産業機械、暖房、発電、製鉄、化学工業などは、重さ、価格、積載荷重や対応技術等の制約により、バッテリー駆動への転換は容易ではない。

 そんななか、欧州で現在注目されているのがe燃料(e-Fuel)と呼ばれる合成燃料だ。合成燃料とは、CO2と水素(H2)を合成して製造される燃料で、原料のCO2は各産業からの副生物を利用する。将来は大気中から捕集することも研究されている。

 水素の製法は4種類あり、水を再生可能電力で電気分解した水素はグリーン水素と呼ばれ、脱炭素燃料とみなされる。なお、当面はCO2排出がゼロではないターコイズやブルー水素も使用できる。

 合成燃料は既存のエンジンを無改造・小改良で利用でき、ガソリン・ディーゼルに混合しても使用できるため「ドロップイン」燃料とも呼ばれる。輸送や給油も既存のインフラを流用できるため、今後の大規模な活用が期待されている。また、水素を燃料とするエンジンも並行して開発されている。

 合成燃料も水素も、生産設備への投資とコストが課題だ。2050年にガソリンと同等のコスト目標を達成するため、ACEAは公的な支援の枠組み構築をECに要望している。

日本の目指すべき成長戦略

 日本政府が2020年10月に発表した「2050年カーボンニュートラル宣言」は、2050年までに温室効果ガスの排出を「実質ゼロ」にすることを目標とし、「経済成長の機会」ととらえている。

 この戦略は欧州と全く同じで、インフラや新技術開発等への投資で経済を活性化し、雇用を創出することを目指している。要は「危機を機会に変える」わけだ。日常の報道では電動化と再エネ電力しか聞こえてこないが、具体的な方策を見ると多分野で水素の活用が記載されている。

・水素専燃火力発電:100%水素でガスタービンを駆動するクリーン発電
・水素ボイラー/燃料電池:暖房用熱源に水素を利用するクリーン暖房
・水素還元製鉄:コークス(石炭)ではなく水素で酸化鉄を還元するクリーン製鉄
・EV/FCV/合成燃料/水素エンジン:クリーンな鉄道、船舶や産業用機器

 産官学共同で水素社会の構築を目指す、水素バリューチェーン推進協議会(JH2A)という団体がある(187社加盟)。燃料電池/水素エンジンのトヨタ自動車、豪州で水素を製造して船で神戸まで運ぶ川崎重工業や、水素ステーションの岩谷産業などが幹事会社を務める。

 生産量を増やしてコストを低減するためには欧州と協力し、技術開発と標準化では競合しながら、世界に水素バリューチェーンを構築することが期待される。

 ここで、ドイツの内燃機関専門誌「MTZ」副編集長が執筆した巻頭記事(2021年12月号)の一部を紹介する。

「混乱した日々が巡っており “ゼロ排出”もそのひとつだ。いかなる物質も排出しないモビリティー技術は間もなく準備が整う、との印象を受けるが、よく考えてみればこれは全くの見当違いだと分かるだろう。人は皆、熱、CO2とメタンを排出しているがそれは地球の気候には全く影響しない」

 MTZでは毎月、合成燃料や水素も含めたエンジンの開発状況を紹介している。自動車業界は総じてBEV1本足の脱炭素には懐疑的だが、全方位開発には経営的体力が必要となるため、ESG投資も考慮して電動化に専念(宣言)する企業も少なくない。

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