クルマから街を取り戻す! 事故とは無縁で、平和な新概念「ビルアペゼ」をご存じか【連載】牧村和彦博士の移動×都市のDX最前線(12)
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フランスでの広がりと取り組み

ビルアペゼとは、日本語で直訳すると
「穏やかになったまち」
である。クルマで埋め尽くされたまちの中心市街地を人が主役の空間に取り戻し、事故とは無縁の平和で穏やかな都市空間を創出していくまちづくりの手法を一言で表現する言葉だ。
類似の概念として、歩車共存道路という交通政策があり、歩車共存道路は1970年代から世界で普及してきたものの、まちなかというよりも、住宅地や生活道路を対象とした安全対策だ。ビルアペゼは、この概念をまちなかやまち全体に拡充し、主たる対象を自動車だけではなく、道路を利用する全ての人とし、道路を通して新しい都市の価値を生む政策と言って良いだろう。
また、ビルアペゼは規制速度を重要視しており、規制速度を政策ツールとして取り扱っている点が特徴だ。日本のような住宅地など、特定地区のゾーン30に代表される速度規制を、市内全域やまちなか全域に適用するとともに、段階的に一部エリアや路線に対しては、歩行者や自転車を最優先するゾーン20(最高速度を20km/hとする政策)を導入し、地域全体の交通をリ・デザイン(再構築)するものである。
特定の交通手段に着目したリ・デザインではなく、都市活動を営む人を中心に捉え、みんなの道路という考え方に基づき、地区全体の道路空間、その利用の仕方をマネジメントしていく、新しい概念だ。
セミナーでは、大都市のパリだけではなく、アンジェ、ナント、ラロシェルなどの地方都市にビルアペゼというスローなまちづくりが広がっている状況が報告された点も注目だ。
フランス・レンヌでは、2023年2月13日から4か月間、まちなか歴史地区全域(40ha)を対象に、最高速度を20km/hに制限する取り組みがスタートしている。まちなかは歩行者と自転車、公共交通を最優先とし、自動車(来訪者や物流車両)は時間や空間で制限されるスローなまちづくりを全域で始めたことは、フランスでこのような取り組みがさらに広がっている象徴であり、大きな話題だ。