「人間は交通事故を必ず起こす」 こんな失敗前提に立った最先端の安全対策「ビジョンゼロ」をご存じか【連載】牧村和彦博士の移動×都市のDX最前線(9)

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「人間は交通事故を起こしてしまう」という事を前提に、たとえ起こったとしても「重傷化させないための道づくり」を推進する交通政策「ビジョンゼロ」を解説する。

「重傷化させない」道づくり

車両左折時の歩行者横断安全保護用の小島を設け、ゼブラゾーンで自転車と車道を分離したニューヨークの道路ダイエット(画像:牧村和彦)
車両左折時の歩行者横断安全保護用の小島を設け、ゼブラゾーンで自転車と車道を分離したニューヨークの道路ダイエット(画像:牧村和彦)

 街中での悲惨な交通事故が一向に減らない。新型コロナウイルスによるパンデミックが生じる前から、高齢者ドライバーによる歩行者を巻き込む死亡・重傷事故が連日マスコミで報道され、通学路では児童を巻き込む交通事故が今も後を絶たない。

 もちろん、行政もさまざまな政策を打ってきた。2022年1年間の交通事故死者数は2610人と減少を続けており、世界でも優秀な国として、最近は取り上げられるようになってきた。ただし、軽傷事故を除く負傷者数は35万人を超え、24時間以内に死亡する交通事故のうち、56%は高齢者であり、国民誰もが安心して外出できる環境とは言い難い。

 一方でヘルシンキやオスロなど、先進諸国の中には大都市部であっても歩行者に関連する交通死亡事故が1年を通して「ゼロ」件になるといった、目覚ましい成果を挙げる都市が出現しており、大きな話題だ。その背景にあるのが、「ビジョンゼロ」という交通政策だ。一言で言えば、人間は交通事故を起こしてしまうという事を前提に、たとえ起こったとしても「重傷化させないための道づくり」を推進する政策である。

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