公共交通を潰し続ける日本 復興のカギは欧州交通計画「SUMP」にあった!
SDGsに向けた実践としてのSUMP

目標を設定し、逆算する形で計画を立てるバックキャスティングアプローチは、持続可能な開発目標(SDGs)でも知られようになった。SUMPにおいても、その考え方は徹底している。環境制約や不平等をなくすという観点から、まず目指す将来について合意し、そこに至るための目標値と具体的な施策を決めるのである。
日本でもSDGsがはやりだが、その意味を理解し、実践している施策は意外に少ない。その点、モビリティは、いろいろな意味でSDGsのターゲットに直結する。
目標11「住み続けられるまちづくりを」においては、ターゲットとして「公共交通機関の拡大」が明示されている。目標13「気候変動に具体的な対策を」となると、自家用車に頼らず、公共交通を活用することが求められる。
これだけに止まらない。目標5「ジェンダー平等を実現」するためには、ベビーカーも使えない大都市圏の通勤混雑を解消する必要がある。一方、地方圏では、鉄道やバスが不便になり、学校選択の自由度が奪われているという現状は、目標4「質の高い教育をみんなに」という目標にもかかわることを示している。
モビリティを高めようというしっかりとした目標があるならば、今、欧州が行っている運賃引き下げやLRTの投資が、目標到達に向けた施策として出てきた解だということが理解できる。
効果を最大限発揮させることの重要性
とはいえ、何らかの施策を講じる際に、費用対効果を検証することは欠かせない。その意味でSUMPが強調している点は、
「事業コストを下げることではなく、効果を最大限発揮させる」
ことで、そのために関連施策と整合性を取ることである。
日本の場合、公共交通と中心市街地の再生をうたいつつ、駐車場の拡大や郊外の道路整備を進めるといった総花的な計画が少なくない。これに対し、SUMPは「統合」という言葉を用いて、全体の最適解を求めようとしている。
また、検証方法についても、B/C(BバイC)で知られる費用便益分析(あるプロジェクトにかかる費用とそこから得られる便益を比較して、そのプロジェクトを評価する手法)だけではない。貨幣換算できない効果も含めて検証するために、例えば、多基準分析(複数の基準で代替案を評価し選択を支援する手法)という手法を補完的に使うことも、SUMPで述べられている。
ちなみに、日本の国土交通省のマニュアルにも「(B/Cが)少しでも1.0 を下回った場合は社会的に必要のない」という
「誤った評価」
に警鐘を鳴らしているが、実体は「1.0」が金科玉条の如く重い。