公共交通を潰し続ける日本 復興のカギは欧州交通計画「SUMP」にあった!

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鉄道事業者から値上げの申請が相次ぐ日本の公共交通。しかし筆者は、公共交通が「収益事業ではなく、まちづくりのひとつのツール」だと指摘する。

脱炭素社会と全員参加の社会を目指して

フランスのLRT(画像:写真AC)
フランスのLRT(画像:写真AC)

 欧州もクルマ社会であることに変わりない。

 ひとり当たりの乗用車台数は、日本より欧州の方が多い。街中の広場はかつて自動車の駐車場となり、周辺の道路は渋滞した。鉄道やバスは公営が基本で、遅れも頻発し、魅力的な乗り物とはいえなかった。そのため、2000年頃までは、合理化の一環で、鉄道路線の廃止も相次いだ。

 しかし、欧州は1990年代頃から地球環境問題を見据え、また、高齢者のみならず、自家用車が使えないあらゆる人が移動できる社会、つまりモビリティ(移動可能性)を確保した社会を目指してきた。

 そこで、鉄道の上下分離やバス事業者の入札といった形で、公民の新たな役割分担に基づく運営方法を取り入れた。その一方、環境や社会参加、健康といった視点を軸に、地域公共交通を「公共サービス」として位置づけ、サービスの改善と投資を行ってきた。

 バリアフリーで環境にも優しい次世代型路面電車(LRT)が、欧州で普及したことはよく知られている。かつてクルマの邪魔者として路面電車を廃止したフランスやイギリスの場合、各地で走るLRTは1980年代以降、新たなに建設したものである。

 なぜ、そのようなことができたのか。それは、公共交通が

「収益事業ではなく、まちづくりのひとつのツール」

だからある。

 フランスの場合、都市圏交通計画(PDU)を策定し、まちづくりの一環としてLRTの導入が進められた。イギリスでは、同様に地域交通計画(LTP)という枠組みが導入され、やはりLRTの導入などが進められた。

交通計画からSUMPへ

持続可能な都市モビリティ計画(Sustainable Urban Mobility Plan)(画像:SMMR)
持続可能な都市モビリティ計画(Sustainable Urban Mobility Plan)(画像:SMMR)

 そうした欧州各国の交通計画の動きを踏まえ、欧州全域の指針として、欧州委員会が結実させたものが

「持続可能な都市モビリティ計画(Sustainable Urban Mobility Plan)」

通称「SUMP(サンプ)」である 。

 SUMPは、鉄道やバスのほか、自転車や徒歩、各種シェアサービスなど全ての移動モードを対象とする。モビリティとは、単なる移動手段ではなく、人が自由に移動できる可能性を意味するのである。

 SUMPの最大の特徴は、「人」に焦点を当てた計画だ。従前、交通計画といえば、渋滞を減らすような交通流の設計が求められた。これに対し、SUMPは交通をスムーズに流すための計画は、古い考え方だと否定している。

 都心が渋滞するとわかれば、ドライバーはクルマで入らなくなる。筆者(宇都宮浄人、経済学者)が以前滞在したウィーン工科大の教授は、

「渋滞させることが結果的に人のためになるのであれば、それも交通計画だ」

と常々語っていた。