「8割が離職を意識」の衝撃――自動車整備士は“3K”ではなく“低賃金”に絶望している
報酬の仕組み

「車が好きだから入った」。そう語る人は少なくないだろう。仕事にも手応えを感じているが、それでも続けられない。理由は「生活が成り立たないから辞める」と返ってくる。この現実的な判断が積み重なった結果が、前述のとおり、専業で81.3%、兼業で75.6%という離職意向の高さにつながっている。
数字だけを見れば衝撃的だが、現場の声を追えば、不思議な話ではないとも思えてくる。かつて語られてきた3Kのイメージ、きつい、汚い、危険といった言葉は、いまの実感とは少しずれている。設備も環境も改善が進み、仕事の中身はむしろ高度化している。それでも人が離れる。問題は別のところにある。
突き詰めれば、技術職としての価値が賃金に反映されていない点に行き着く。電子制御や高度な診断が当たり前になった現場では、知識と経験が欠かせない。にもかかわらず、収入は他産業と比べて見劣りする水準にとどまる。専門性が報われているとはいいがたい。
背景には、価格交渉力の弱さがある。いくら手間と技術を注いでも、その対価を十分に請求できない。利用者にとって整備の中身は見えにくく、どうしても値段の安さが優先される。結果として、現場は低い工賃のままサービスを提供し続けることになる。従事者の責任感や情熱に頼り、なんとか回してきたというのが実情だろう。
だが、そのやり方には限界がある。善意を前提にした経営は長くは続かない。気持ちで踏ん張ることを求めるだけでは、人は定着しない。いま求められているのは精神論ではなく、工賃の決め方や評価のあり方、将来の見通しまで含めた処遇全体の見直しだ。
技術を正当に評価し、それを賃金として還元できる体制が整わなければ、現場の縮小は止まらないだろう。人が減れば、点検や修理の質にも影響が出る。その影響を受けるのは、職場を去る整備士ではない。日々車を使う私たち自身だ。確かな保守が受けられなくなったとき、初めてこの問題の重さに気づくことになる。