「8割が離職を意識」の衝撃――自動車整備士は“3K”ではなく“低賃金”に絶望している
産業全体への影響

整備士が足りないという話は、これまで各社の採用難や職場環境の課題として語られることが多かった。だが、現場を見ていると、それだけでは収まりきらない広がりを感じる。人が減る影響は、工場のなかにとどまらず、自動車産業全体が積み上げてきた価値の足元にまで及び始めている。
整備の手が足りなくなれば、点検や修理の待ち時間が長くなる。作業の質にもばらつきが出やすい。どこで直しても同じ水準が保たれる、という前提が揺らげば、ユーザーの安心感は保てない。中古車市場が拠りどころにしてきたのは、まさにその信頼だった。きちんと手入れされてきた車であるという確かさがあってこそ、値段がつき、売買が成り立つ。
ところが、十分な保守が期待できない状況が広がれば話は変わる。整備履歴に不安が残る車両は、資産として評価されにくい。結果として残価は下がり、相場は崩れていく。数字の下落は市場心理を冷やし、買い手も売り手も慎重になる。流通の勢いが落ちるのは時間の問題だろう。
下取り価格が下がれば、新車への買い替えに充てる資金も目減りする。販売の現場はその影響をまともに受ける。売れ行きが鈍れば、メーカーや販売店の経営にも跳ね返る。整備の問題が、いつの間にか市場全体の停滞につながっていく。
とりわけ地方では状況が重い。車がなければ通勤も通学も難しい地域が多いからだ。身近な整備拠点がなくなれば、日常の足を維持すること自体が難しくなる。移動手段は生活の前提であり、それが崩れれば地域の商いも立ちゆかなくなる。整備士不足は、働き手の問題という枠を越え、地域社会の土台に直接触れる課題になっている。
車を売った後の支えが弱まれば、市場全体も持ちこたえられない。アフターサービスの基盤が揺らいでいる現実を、業界はもっと重く受け止める必要がある。整備の現場で起きていることは、遠い話ではない。産業の先行きを左右する、かなり現実的な問題として、すでに目の前にある。