「8割が離職を意識」の衝撃――自動車整備士は“3K”ではなく“低賃金”に絶望している
整備士の仕事は高度化する一方、待遇は据え置かれたままだ。調査では約8割が離職を意識。専門職の価値が賃金に反映されない歪みが、車社会の基盤を静かに揺らしている。
高度化と工賃のずれ

この食い違いは、特定の企業の努力不足で片づけられる話ではない。業界全体の成り立ちに深く根を張っている。近年の車両は電子制御が前提となり、衝突被害軽減ブレーキや電動化への対応、高度な診断機材の扱いなど、日々の業務は確実に難しくなった。現場で求められているのは、経験だけに頼らない診断力と、幅広い専門知識をあわせ持つ技術者である。
ところが、その高度さは価格に反映されにくい。点検や修理にどのような工程があり、どれほどの知識や判断が必要なのか。利用者がそれを実感する機会は多くない。結果として、店選びの基準は分かりやすい安さに寄りがちになる。なかで何が行われているかが見えにくいことが、価格の評価を一面的なものにしている。
この状況では、店舗側も強気には出られない。周囲が値下げをすれば、追随せざるを得ない空気が生まれる。無理な低価格競争に巻き込まれ、利益は削られていく。人を育て、設備を整え、難度の高い作業に対応し続けるための余力は、次第に失われていく。
車両本体の価格は年々上がっている。安全機能や制御技術が増えた結果でもあり、その流れ自体は理解しやすい。一方で、その車を安全に使い続けるための保守や点検に回るお金は、同じようには増えていない。高度化が進む現場と、停滞したままの収益構造との間に、はっきりとしたずれがある。
「業務の負担は重くなるのに、賃金水準は動かない」
この矛盾が、日々現場に立つ技術者の体力や気持ちを少しずつ奪っている。個々の整備士が踏ん張れば解決する話ではなく、業界の構造が生み出している消耗と言ったほうが近い。そうした前提に目を向けなければ、人が定着しない理由は見えてこない。