自動運転バス「完全無人化」は幻想だった? 東京の複雑環境が暴く「誰も読めない」運行コストの真実
自動運転バスの現実

自動運転バスの時代に人間は不要になるのか。結論からいえば、人員は削減できるが、完全になくなることはない。消費者のなかには、「自動運転 = 車が自律的に走り、無人運行できる」というイメージが強い。しかし現実は違う。
レベル4の自動運転は、特定条件下でシステムが全ての運転タスクをこなし、人が関与しなくてもよい状態を指す。国内では
・福井県永平寺町の鉄道廃線跡
・東京都大田区の羽田イノベーションシティ
・長野県塩尻市
などで運行事例がある。市民の間でも自動運転の進化を感じる機会は増えている。
ただし、運行環境には厳しい制約がある。実験的に走行しているケースは低速で、限定区域内、交通量も少なく、平坦で単純な道路構造が前提だ。つまり
「最適化された条件下でのみ運行が成立している」
に過ぎないのだ。東京圏の一般路線バスのように、
・狭い道
・渋滞
・歩行者混在
の環境で同じ運行ができる保証はない。現状は
「できているように見える」
に過ぎず、実際にはコストや人的サポートが不可欠であり、規模を拡大した際の費用は予測が難しい。完全無人化に対する社会的・心理的な不安は根強い。日本では鉄道やバスに対する安全志向が強く、無人運転の受容性は低い。
路線バスの専門家である筆者(西山敏樹、都市工学者)は各地の自動運転実証実験に参加し、モニター市民に取材してきた。
「いざというときに助けてくれる人が乗ってないの?」
「障がい者をサポートしてくれる人、誰もいないの?」
「緊急時の連絡、どうやって取ればいいの?」
といった不安が、高齢者を中心に多く聞かれた。
緊急対応や乗客間のトラブル、高齢者・障がい者・子どもへの支援など、運転以外の人的付加価値が強く求められている声もある。給与が多少下がっても、
「車掌的なスタッフを残してほしい」
という要望が出る可能性が高い。現在の実証実験でもスタッフが乗車しており、その存在を安心材料として認識する市民は多い。