西九州新幹線「佐賀県を通らないルート」実現可能か? 有明海ルートで博多~長崎10分短縮…浮上した奇策の経済効果と課題とは

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長崎新幹線「有明海ルート」の提案は、佐賀県の反対を回避し、福岡県とのアクセス改善を目指す新たな道を開く。しかし、建設費用や技術的課題など解決すべき問題も山積している。

未開発地を活かす長里案

有明海ルート横断図(画像:北村幸太郎)
有明海ルート横断図(画像:北村幸太郎)

 Xにはさまざまな案が投稿されている。それらと現地の地形や海底の状況を照らし合わせ、ひとつの案にまとめてみた。

 まず、諫早駅からの分岐は、駅の北側1km付近で分かれる。西九州新幹線の運行本数は、おそらく2時間に1本程度に加え、大村車両基地への回送列車くらいだろう。そのため、建設費が安く済む平面交差での分岐で問題ないと考えられる。

 そこから東へ約13km進んだ場所にある長里駅の併設地に、新駅を設ける。この新駅については、小長井駅に設置してトンネルに入る案も多く見られた。Xの投稿や安藤氏の記事でも支持されている。しかし、長里駅周辺には広大な未開発地がある。また、高架から海底へ向けての勾配に余裕を持たせやすい点でも、長里駅の方が有望と見た。

 長里駅の東約200mの地点から、有明海トンネルの掘削を始める。「トマトのバス停大久保」付近から海底に入る計画だ。有明海の水深は平均で10m程度。深い場所でも20mにとどまる。この区間19.4kmには沈埋(ちんまい)トンネル工法が使える。

 沈埋トンネルとは、箱型のトンネルを陸上で製作し、それを海面に浮かべて船で運び、海底に掘った溝に沈めてつなぐ工法である。りんかい線の台場トンネルも、水深25mの海底に同様の方法で建設された。詳しくは鉄道・運輸機構のYouTubeにある施工記録の動画を参照するとよい。

 この沈埋トンネルで有明海を横断し、福岡県側の陸地に上陸する。そこから北へ緩やかなカーブで進み、JR鹿児島本線と合流するあたりで、全長28.3kmのトンネルを抜け、地上に出る。そして大牟田駅に至る。新駅は在来線の留置線がある敷地に地平駅として設置される見込みだ。

 大牟田駅を出ると、高架に上がって進む。西鉄東甘木駅付近から、九州新幹線に向けて分岐していく。しばらく進むと、新大牟田~筑後船小屋間にある「新みやまき電区分所」が見えてくる。このあたりで新幹線と合流できる可能性がある。大牟田駅からの距離は8.5km。筑後船小屋駅からは9.1kmの地点だ。

51.7km新設に見る現実解

 建設距離はどうなるか。

 諫早駅を起点の0kmとすると、長里駅までは14.5km。大牟田駅までは44.2km。新幹線と合流する地点までは52.7kmになる。諫早駅付近では1kmほどを既存線と共用できるため、実質の新設区間は51.7kmほどと見られる。

 現在検討中の武雄温泉~新鳥栖間(佐賀駅ルート)は、全長およそ50kmとされている。今回の案はそれより1.5km長いだけだ。

 ただし、長崎~博多間の総延長で見ると、現行案では約142km。一方、有明海ルートを採用すれば131.0kmとなり、約11km短くなる。さらに、佐賀駅を経由しないため、速達列車の停車駅が減る。所要時間の短縮にもつながる可能性がある。

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