バス運転手の年収はなぜ上がらないのか? 激務薄給の背後にある「規制緩和」という罠
決して高くない年収
コロナ禍による観光需要の低迷でやや緩和されているものの、バス運転手の不足は深刻な事態で、減便されたり、廃止されたりするバス路線も少なくない。
一方、厚生労働省の賃金構造基本統計調査によれば、営業用バスの運転手の年収は
・約466万円(2019年時点)
であり、決して高くはない。また、この数字には残業代も含まれており、営業用バスの運転手の労働時間は、
・月203時間
と他の職種に比べても高くなっている。
なぜ、人手不足なのにバスの運転手の賃金は上がらないのか? このことを教えてくれるのが、玄田有史編『人手不足なのになぜ賃金が上がらないのか』(慶應義塾大学出版会)の第3章にあたる阿部正浩「規制を緩和しても賃金は上がらない――バス運転手の事例から」である。
バス運転手の賃金の話に入る前に、本書の第1章・近藤絢子「人手不足なのに賃金が上がらない三つの理由」における、その他の職種も含めた賃金が上がらない理由についての全体的な分析を紹介したい。
人手不足なのに賃金が上がらない理由
賃金が上がらない三つの理由とは、
1.医療・福祉産業で価格メカニズムがうまくはたらかないこと
2.雇用条件が悪くなったので人手不足に陥っている企業があること
3.賃金の下方硬直性の裏返しとして上方硬直性があること
になる。
「1」については、医療・福祉産業ではサービス価格を国が設定しており、人手不足になったからといって働き手の賃金を引き上げることは難しい。「2」については、人手不足は需要超過だけではなく供給不足でも起こり得る。そもそも求人の条件が悪すぎるために人が集まらない = 人手不足感が強くなる、といった状況が起きていると思われる。「3」は、賃金にはよく知られている「下方硬直性」だけではなく、その逆もあるという話である。
労働者は名目賃金が下がることを嫌がるために、本来ならば賃下げをしたい局面でも経営者は賃金を下げずにすませようとする(賃金の下方硬直性)。
しかし、賃下げが難しいことを知っている経営者は、本来ならば賃上げをするべき局面でもあっても、将来の賃下げの難しさを見越して、賃上げをしようとしないのである(賃金の上方硬直性)。