バス運転手の年収はなぜ上がらないのか? 激務薄給の背後にある「規制緩和」という罠
なぜバス運転手の賃金は上がらないのか。労働時間や努力を追加で投入しても、乗客がいなければ売上は増えない――そんな現実をどう変えられるか。
規制緩和が招いた賃金切り下げ
それでも、以前はバス運転手においても年功的な賃金が採られていた。バス運転手の賃金構造は、
・公営バス
・大手私鉄系
・中小
の三つに分類することができる。公営バスの運転手は地方公務員の俸給表に準じており、基本的に年功的な賃金となる。
また、大手私鉄系も鉄道の運転士の賃金に準じる形で設定されている。鉄道の運転士は経験によって技能や知識が伸長して生産性も高くなるといわれており、駅長や運転指令といったより高い位の仕事もあったため、年功的な賃金が設定されていた。
しかし、これが崩れてきた。公営バスの運営は民間業者に管理を委託されるケースが増えており、大手私鉄系もバス事業の分社化によって年功性を緩めた賃金体系を導入するようになった。
路線バスの1kmあたりの収入は2003(平成15)年ごろまでは下落傾向だったが、2014年ごろまでは横ばいで推移している。それならば、バス運転手の賃金を切り下げる必要はないように思われるが、この賃金切り下げの背景にあったのが規制緩和になる。
先ほど述べたように、2000年から貸し切りバスや乗り合いバスに対する規制が緩和され、多くの事業者が新規参入した。これらの事業者が参入したのは採算の取れる高速路線バスや貸し切りバスであり、ここは既存のバス会社にとっても利益の上がる分野だった。今まで市内路線バスの赤字を高速路線バスや貸し切りバスで埋めていた既存のバス会社は、ドル箱路線で価格競争を強いられることになり、経営が圧迫されることになった。
結果的に、バス運転手の生産性は落ちることになり(乗客数、客単価ともに低下したため)、それが賃金の下落につながったのである。