バス運転手の年収はなぜ上がらないのか? 激務薄給の背後にある「規制緩和」という罠
規制緩和が招いた人手不足
2(雇用条件が悪くなったので人手不足に陥っている企業があること)はともかく、1(医療・福祉産業で価格メカニズムがうまくはたらかないこと)や3(賃金の下方硬直性の裏返しとして上方硬直性があること)といった要因を聞くと、
「やはり規制緩和が必要なのではないか」
と考える人もいるかもしれないが、バスの運転手に関しては、むしろ規制緩和が賃金の低下をもたらしている。
バス業界では2000(平成12)年の道路運送法の改正によって、2000年に貸し切りバス、2002年に乗り合いバスの規制が緩和され、需給調整規則などが廃止された。事業参入についても免許制から資格要件をチェックする許可制へ移行し、運賃についても多様な運賃設定が可能になった。
こうした規制緩和を受けて増加したのが、
・高速バス
・ツアーバス
である。
ツアーバスは貸し切りバスに分類され、乗り合いバスの認可を受けずに営業できるが、乗客から見れば特に高速バスとの変わりはなく、高速路線バスと高速ツアーバスが入り乱れて競争を繰り広げることとなった。
こうした状況に外国人観光客の増加に伴う貸し切り観光バス需要の急増が加わって、バス運転手は人手不足の状態になった。自動車運転の職業(トラックやタクシーの運転手も含む)の有効求人倍率は上がっていき、2019年には3.10倍にまでなっている(賃金構造基本統計調査より)。
ところが、バス運転手の賃金は上がっておらず、バスの運転手の平均時間あたりの賃金は、2002年の1737円から2015年には1475円にまで低下している。つまり、
「人手不足にもかかわらず賃金は下がっている」
のである。
この理由として、まずバス運転手という仕事の特性がある。製造業などでは、労働時間や努力を追加で投入すれば生産物が増加するが、バス運転手が労働時間や努力を追加で投入しても乗りたい客がいなければ売り上げは増えない。
また、一般的に経験を積むほど生産性が上がっていく職種が多いが、バス運転手は経験を積んだからといってより多くの乗客を運べるようになるわけではない。もちろん、経験によってよりスムーズな運行や乗客へのきめ細かなサービスが可能になるかもしれないが、それが乗客を増やす効果は限られている。