沿線住民と徹底的に交流し、バスを活性化させよ【短期連載】希望という名の路線バス(4)

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コロナ禍で96%の路線バス事業者が赤字に。十勝バスは地域密着のコミュニケーション戦略で9年連続増収を達成。沿線訪問で信頼構築し、「マルシェバス」などの移動販売も成功。地域とのふれあいがバス事業の未来を切り開く。

「信頼感醸成」の秘訣

十勝バスのウェブサイト(画像:十勝バス)
十勝バスのウェブサイト(画像:十勝バス)

 これは、路線バス事業の基本中の基本に思えるかもしれない。さかのぼれば、バスの営業所やバスターミナル、駅の案内所などのラックに路線図や時刻表を置く例はよくある。しかし、沿線の家庭を訪問しながら路線図や時刻表を配布するケースはあまり見かけない。

 これにはさまざまな効果がある。筆者(西山敏樹、都市工学者)はバス事業者との共同研究を何度も行っているが、それでも生活者からは

「バス営業所は入りにくくて敷居が高い」
「ドライバーが怖そう」

という声をよく聞く。つまり、“バス事業そのものに苦手意識を持っている”生活者が多いように感じる。路線図や時刻表を持っていくなど、スタッフが生活者と直接コミュニケーションをとる機会を設けることは、バス事業者のイメージアップや親近感の向上につながる。

 そうしてバスへの信頼が高まれば、生活者は自発的にバスを利用するようになる。また、バス事業者と生活者が協力してバスの運行を維持することにもつながる。

 筆者は日頃の大学での講義で、地域のよい循環には、

「信頼感の醸成 → みんなの自発的行動 → お互いさまの気持ちを持った協働」

というプロセスが必要だと説明している。その信頼感を醸成するために、十勝バスは沿線を地道に歩くことにしたのだ。これはすべてのバス事業者にとって重要な教訓だと筆者は感じている。

 ちなみに、このサクセスストーリーをもとに、十勝バスの2代目社長である野村文吾氏をモデルにしたミュージカル「KACHI BUS」が上演されたこともあり、十勝バスの認知度はかなり高まっている。

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