バスを走らせるだけでは、もう生き残れない【短期連載】希望という名の路線バス(1)
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バス業界における異業種参入は、経営の多様化と地域コミュニティーの活性化をうながす。北海道拓殖バスと東急バスの取り組みを紹介する。
新事業でバス復活
広大な十勝平野のほぼ中央に位置する北海道音更(おとふけ)町。同地に本社を置く北海道拓殖バスは2024年4月6日、新得町に観光農園を開園した。その名も「拓鉄キノコタン」だ。
この名前は、
・鉄道ファンならおなじみの北海道拓殖鉄道の通称「拓鉄」
・農園で栽培する「キノコ」
・アイヌ語で集落を意味する「コタン」
を組み合わせたもので、キノコ(主にシイタケ)の収穫体験ができる場所を作りたいという思いが込められている。ちなみに前述の北海道拓殖バスは、北海道拓殖鉄道(鉄道は1968年に廃線。現在は物流会社)の系列会社である。
バス事業者がなぜキノコ栽培事業に参入するのか、不思議に思う人もいるかもしれないが、経営難のなかで何か手を打つために思いついたようだ。しかし、観光農園を持つことで、バス路線が移動手段として活用できる。
筆者(西山敏樹、都市工学者)は先日、NHK帯広放送局から、バス事業者が観光農園事業に参入した背景について説明してほしいという依頼を受けた。これをきっかけに、この事業に興味を持ち、調べてみた。
北海道拓殖バスもコロナ禍の影響を受け、他の企業同様、経営は厳しい状況にある。路線バス事業者の96%は赤字だ。しかし、観光客が訪れる場所を作り、バスに乗ってもらう仕組みを作った。このような新規事業へのアイデアは、バス事業を維持していく上で必要不可欠であり、それを実践している北海道拓殖バスは素晴らしいと思う。他社はこの一歩を踏み出せないからだ。