「奴隷を生贄にした」過去も…現代まで受け継がれる船の「進水式」とは何か?
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船の誕生を祝う象徴的行事

進水式とは、船が初めて水に浮かぶ瞬間を祝う儀式であり、造船工程のなかでも象徴的な行事である。一般には、船首に結ばれたシャンパンボトルを割る光景がよく知られているが、その形式や意味は国や時代によって大きく異なる。
古くは航海の安全を祈る宗教的な側面もあったが、今日では企業の広報や地域の祝祭としての性格も併せ持つ。進水の瞬間、船体が水面に触れるその音や水しぶき、周囲から上がる歓声は、工程完了の合図に留まらず、造船に携わった人々や船主、見物人の心をひとつにする瞬間でもある。
船は古来より、人々の生活や交易を支える重要な存在であった。そして、その船を建造して進水させる、いわゆる進水式の起源は古代にまでさかのぼる。すでにローマ時代やヴァイキングの時代には、新造船を海に送り出す際、航海の安全を祈る儀式が行われていた。その形はときを経るごとに変わっていったが、特にヴァイキングの時代は野蛮なものだったと伝えられる。
「奴隷などを生贄として捧げる形」
で進水を行ったとされ、命を託す船に対して人々が祈りを捧げることがいかに切実であったかがうかがえる。
現在の進水式は、シャンパンを船首にぶつけて割る方式が一般的だが、その背後には長い歴史が息づいている。18世紀の英国では赤ワインの瓶を用いていたが、次第に白ワインやシャンパンが選ばれるようになった。この習慣には、船の安全を願う象徴的意味と同時に、船に新たな命を与える祝祭的な意味合いが含まれている。
瓶が割れる瞬間は、船が初めて海と向き合うときの緊張と喜びを象徴し、見守る人々に達成感や期待をもたらす。支綱と呼ばれるロープを用いて船首に瓶を確実にぶつける工夫は、技術的安全性と儀式性を両立させた現代ならではの演出であり、船と人を結ぶ特別な時間を形作っている。