「負の遺産」を活用した観光まちづくりで、地域は幸せになれるのか?【リレー連載】平和産業としての令和観光論(3)

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コロナ禍や世界各地の戦争を乗り越え、観光が平和と国際協力に与える影響を探るリレー連載。異文化理解や対話の促進を通じて、観光は「平和産業」としてどのような役割を果たすべきかを検証する。

災害遺産の闇と光

日光市足尾庁舎付近から足尾中心地の街並み。山間から「簀子橋堆積場」の巨大な堤体が街を見下ろす(画像:大塚良治)
日光市足尾庁舎付近から足尾中心地の街並み。山間から「簀子橋堆積場」の巨大な堤体が街を見下ろす(画像:大塚良治)

 前述の災害遺産は、一時的な大災害により生まれた。ただし、東京電力福島第一原子力発電所で燃料デブリの冷却水や建屋内に流入した地下水による汚染水は発生し続ける。

 この汚染水からトリチウム以外の放射性物質等を除去した「ALPS処理水」を、2023年8月24日以降、国の基準を十分に下回るよう海水で希釈したうえで海洋放出している。この海洋放出は同原発の廃止措置が完了する2041年~2051年の間に終了するとされる(「東京電力ホールディングス株式会社福島第一原子力発電所におけるALPS処理水の処分に伴う当面の対策の取りまとめ」)。

 一方、生産設備の廃止後も公害が継続している遺産もある。そのひとつの例として、旧足尾銅山(栃木県日光市足尾町)に関わる遺産を紹介する。

 1973(昭和48)年2月28日の閉山後も重金属類を含む坑廃水が現在に至るまで流出し続けている事実を知る人はそれほど多くないかもしれない。その坑廃水を浄水処理し渡良瀬川に放出する「中才浄水場」と、銅の生産や汚染水処理の過程で発生する鉱滓(こうさい)をためる堆積場が足尾町の各所に存在する。

 足尾町に14か所ある堆積場で現在唯一稼働する「簀子(すのこ)橋堆積場」は巨大な堤体の内側に鉱滓(こうさい)を封じ込めているが、巨大地震や近年多発する台風やゲリラ豪雨により堤体が決壊する不安が頭をもたげる。

 実際、東日本大震災時には、足尾町原向の「源五郎沢堆積場」から鉱毒を含む土砂が渡良瀬川に流入する事故が発生している。堆積場のすぐ下を通っている、わたらせ渓谷鉄道線も運休を余儀なくされた。

 一方、観光面では、「足尾銅山跡」が国史跡、「足尾鉄道」(わたらせ渓谷鉄道線)などが登録有形文化財となっており、足尾地域の重要な観光資源となっている。足尾町中心部付近には長屋と防火壁などで構成される「中才鉱山住宅」が残り、大正時代から続く鉱山街の面影をとどめている。また、足尾銅山の世界遺産登録を目指す運動も地元で続けられている。

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