「負の遺産」を活用した観光まちづくりで、地域は幸せになれるのか?【リレー連載】平和産業としての令和観光論(3)
- キーワード :
- 観光, 旅行, 平和産業としての令和観光論
未来へつなぐ「ホープツーリズム」
しかし今後、震災時のまま保存することには、多くの苦労が待ち受けているに違いない。同「小学校」の公開開始に当たっては、「市街地復興効果促進事業」(事業期間:平成25年度~令和2年度)のなかの「請戸小学校震災遺構整備事業」として、総額約3億5000万円(内、国費約2億7000万円)が投じられた。
浪江町教育委員会生涯学習課社会教育係は
「2023年11月27日現在の累計総来場者数は12万2706人、2022年度は5万4513人となった。最近では、請戸小学校を目的とした来場者も増えてきている」
と手応えを示す。
今後、運営・保存などにともなう経費が発生する点について、同課は
「入館料は町の一般会計に入るが、運営・保存等に要する経費は収入を超えており、不足分は町の一般会計で補填している」
と説明する。請戸小学校単独の収支は公開されていないため、参考までに示すと、同町の一般会計における「震災遺構管理運営事業」の事業費は2985万7000円、その内一般財源は625万7000円である。
同町は
「公開を審議する検討委員会では、賛否両論があったが、震災時に請戸地区で残った唯一の施設であり、震災のつらい記憶をとどめるためにも保存する意義は大きく、震災を乗り越えて、未来へつなげる施設であると前向きに考えている。福島県が提唱する『ホープツーリズム』の趣旨にもかなう」
と説明する。
福島県観光物産交流協会は「世界で類を見ない『複合災害(地震・津波・原子力災害)』を経験した唯一の場所」であることを生かし、「複合災害の教訓等から『持続可能な社会・地域づくりを探究・創造する』福島オンリーワンの新しいスタディーツアープログラム」を「ホープツーリズム」(HT)と名付けて商標登録(登録第6096904号)し、浜通り地域の災害遺産を活用した観光振興に取り組んでいる。
日本国際観光学会会長の崎本武志江戸川大学現代社会学科長はHTの本質を「被災に思いをいたすだけでなく、現場の再生や復活の胎動に触れるところにある。これぞ『国の光を観る』という、観光の語源を具現した観光本来の姿である」
と話す。