「最強のエンジン技術」が重荷に変わる? 南ドイツ失速、スペイン北部躍進――なぜ「熟練のプライド」は変化の足枷となったのか

キーワード :
欧州自動車産業で雇用の重心が変わる。南ドイツやチェコでは削減が進む一方、スペイン北部は2035年までに新規雇用増が見込まれ、人的資本の更新速度が地域競争力を決める時代が到来している。

人的資本の再投資こそ生き残りの条件

欧州自動車産業、雇用の大移動。
欧州自動車産業、雇用の大移動。

 リスキリングという言葉を、教育や福利厚生の文脈だけで捉えている限り、この変化の本質を見誤る。人的資本の価値が大きく揺れ動く局面では、価値の下がった資産を切り捨て、収益性の高い領域に再投資することが求められる。

 これは教育施策の範囲を超え、資本効率を徹底的に追う動きだ。欧州で進む拠点移動は、物理的な工場の優位性が薄れ、スキルの更新速度が市場競争力に直結する時代に入ったことを示している。

 日本の現状もまた、構造的な停滞を抱えている。熟練度の高い既存資産ほど、手放し新しい領域へ適応させる摩擦は大きくなる。だが、現状維持を選べば、人的資産の減損を放置し、組織の代謝を止めることと変わらない。スペイン北部の躍進は、豊富な資産を持たない者ほど変化への適応力が高いという事実を示している。

 現在問われているのは、既存技能を延命させる手法ではないだろう。不可避な変化に対して、組織内の人材ポートフォリオをどの速度で入れ替え、次の付加価値を生む体制を築けるか。それだけが生き残りの尺度となる。産業の勢力図が塗り替えられるのを待つ必要はない。

 自らの組織内で、既に過去の遺物となった人材はないか――この厳しい検証が、次の一歩を決める出発点になるだろう。

全てのコメントを見る