なぜ物流業界は“声を上げるドライバー”を排除するのか? 地裁も認定「配車差別」の闇──物流危機の陰で進行する人手不足の“自作自演”
「グレーゾーン運用」と構造的誘惑

労働審判や裁判に発展した場合、会社側が敗訴する可能性は極めて高い。それでもなお、配車差別は繰り返されている。
背景には、業界特有の賃金構造がある。多くのトラックドライバーは、運行距離や拘束時間に応じて賃金が決まる。固定給よりも変動給の比重が大きい。
運輸労連の「賃金・労働条件報告書」(2022年度版)によれば、男子事務職と男子大型運転職の賃金構造には明確な差がある。
●男子事務職
・所定外労働時間:23.7時間
・所定外賃金:5万4704円
・総支給額:39万4526円
・所定内賃金(固定給):33万3794円
・所定内賃金比率(所定内賃金/総額):約84.6%
・1時間あたり総賃金:2089円
●男子大型運転職
・所定外労働時間:36.7時間
・所定外賃金:8万1701円
・総支給額:39万4400円
・所定内賃金(固定給):29万4723円
・所定内賃金比率(所定内賃金/総額):約74.7%
・1時間あたり総賃金:1951円
このデータから見えてくるのは、総支給額は同水準であっても、大型運転職の固定給は明らかに低く、変動給でようやく追いついているという構造だ。そのため、会社が配車を絞れば即座に収入が減る。労働者は会社に逆らいづらい。つまり、業界そのものが、
「労働者が声を上げることを許さない設計」
になっている。実際、現場で声を上げる人はごく少数にとどまる。そのため企業側は、配車で締め付けても問題ないと考える構造が温存されていると考えられる。
その背景には、行政による抑止力の弱さもある。配車差別や不当労働行為の摘発・是正は厚生労働省の所管だが、一方で物流の効率化や時間外労働の上限規制は国土交通省が主管している。それぞれの役割は以下のとおりだ。
●厚労省
・所管事項:不当労働行為
・政策文書での配車言及:あり
・実効性:事後対応のみ
●国交省
・所管事項:労働時間規制
・政策文書での配車言及:なし
・実効性:限定的
要するに、会社側に有利な給与体系が問題の根底にある。しかし、国の政策はいずれもその構造に踏み込もうとしていない。
とくに国交省の「物流効率化ガイドライン」などの資料では、輸送効率化について詳細に議論されているが、労働環境への視点は欠けている。この結果として、制度改革が逆説的に
「従順な者だけを生かす」
裁量人事を加速させている。こうした断絶は、政策の狭間で進行する見えない労働リスクにほかならない。