もはや国が「日産」を救済するしかないのか? 6700億円の赤字、取引1万9000社の命運…産業空洞化の懸念! 国の決断が日本の自動車産業を左右する

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日産自動車の2025年経営再建計画は約2万人の人員削減と工場集約を打ち出し、純損失6709億円で過去最大級の危機に直面する。日本を代表する自動車メーカーの苦境は、約1万9000社に及ぶ部品供給網や地域経済へ連鎖的な打撃をもたらし、産業構造全体の再設計を迫っている。国の支援の是非とその影響を問い直す緊急課題だ。

国が介入すべき理由「その1」

追浜工場の位置(画像:OpenStreetMap)
追浜工場の位置(画像:OpenStreetMap)

 自動車産業は部材供給から完成車販売まで複雑な産業連関構造を持つ。日本の製造業における雇用、投資、輸出を支える重要な経済エンジンだ。中でも日産は、全国に広がる取引先網と系列構造を背景に、特定地域にとどまらず産業基盤全体に影響を及ぼす存在である。帝国データバンクによれば、日産と直接・間接で取引関係を持つ企業は

「約1万9000社」

にのぼる。その分布は地域経済に密接に結びついている。このため、日産の国内生産縮小は単なる生産拠点の減少にとどまらない。

・雇用喪失
・企業収益の減退

を同時に引き起こし、地域経済の循環機能を低下させる可能性が高い。特に地方都市にある中小製造業は顧客基盤の多様化が進んでおらず、特定メーカーへの依存度が高い。結果として、一次受け・二次受け企業が連鎖的に打撃を受け、地域経済全体の縮小につながる構造が浮かび上がる。

 こうした構造的な脆弱性は、過去の業界再編局面でも顕著だった。企業規模が小さいほど、代替需要を取り込む資金調達力や営業開拓力が弱く、キャッシュフローの断絶に直結しやすい。また、設備償却が終わっていない製造設備の残存負債や、専門職従業員の再雇用が困難な点も足かせとなる。これにより市場からの撤退を余儀なくされるケースも少なくない。

 一方、日産が進める再編計画には制度上の妥当性があっても、人的資本の流動性に限界がある。配置転換や再教育制度が整っていても、実際に機能するには時間的余裕と再訓練投資が不可欠だ。特に40代後半以上の社員にとって、新スキルを短期間で習得し市場価値を保ったまま再就職するのは難しい。結果として退職や非正規雇用に追い込まれることが多い。この傾向は企業内に蓄積された技能や暗黙知の断絶を招き、生産効率や品質管理の低下をもたらす。さらに問題となるのは、

「組織内で高評価を得ていた人材ほど早期離職を選びやすい」

ことだ。市場で通用する能力を持つ人材は、業績悪化企業に長く留まる理由が乏しい。これにより社内のスキル構成が急激にアンバランス化し、

・専門性に乏しい中間層
・モチベーションを失った残存社員

だけが残る。結果、再建期に不可欠な技術革新や品質改善の推進力を欠く事態になる。

 こうした状況は単なるコスト削減のリストラでは解決できない。むしろ組織機能の空洞化を招き、競争優位を内側から損なう危険性がある。日産の経営再編は、局所的な経費削減や拠点縮小のミクロ最適化に留まらず、

「産業構造の変化に耐えうる人材・技術・資本の再構築」

に踏み込まなければならない。持続的な成長軸の再獲得は不可能だ。これは一企業だけで解決できる課題ではなく、制度的・政策的調整が必要な次元に入っている。

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