映画『ドライブ・マイ・カー』に登場 往年の名車「サーブ900」が物語るクルマ社会“一つの終焉”
濱口竜介監督の映画『ドライブ・マイ・カー』が第94回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した。物語の中心的役割を担う「クルマ」の描かれ方に、過去から現代、未来へと移ろう人々と車の関係を見て取ることができる。
第94回アカデミー賞で国際長編映画賞

2022年3月末の第94回アカデミー賞で、映画『ドライブ・マイ・カー』(原作・村上春樹、監督・濱口竜介)が国際長編映画賞を受賞した。同作は2021年8月に公開以降、ロングランヒットとなり、アカデミー賞含む多数の映画賞受賞をへて、2022年4月に累計動員80万人、興収10億円を突破している。
村上春樹原作の短編小説を複数組み合わせてつくられた脚本は、手話を含む多言語を用いて進行する劇中劇を含んでいる。そのためストーリーは複雑な構成となっている。
とりわけ『ドライブ・マイ・カー』というタイトルにあるように、自動車(クルマ)が重要な役割を持っている。心をのせる言葉・表現、人格をのせる役柄・演技、そして身体をのせるクルマ――こうした、いわば三つの乗り物が重なり合いながら映画は進んでいく。
この映画におけるクルマは、ただの小道具ではない。その内部は会話劇の舞台となり、クルマそのものにも隠喩(いんゆ)的・象徴的な意味が幾重にも込められている。
「動き」を記録・再生する映画の歴史において、乗り物、とりわけ自動車の役割や意味の重要性は言うまでもない。『怒りの葡萄』や『俺たちに明日はない』などのロードムービーにおいても重要な役割や意味を持ってきたし、カー・アクションはジャンルになるほどいくつも製作されている。
では、『ドライブ・マイ・カー』におけるクルマの役割と意味とは何だろうか。本稿では、そのことを考えることを通して、現代社会における自動車の文化的意味を考察したい。
ただし、映画のストーリーに触れる必要があり、いわゆる「ネタばれ」が含まれるため未見の方は注意をしてほしい。
※以下、ネタバレがあります。ご注意ください。