映画『ドライブ・マイ・カー』に登場 往年の名車「サーブ900」が物語るクルマ社会“一つの終焉”
濱口竜介監督の映画『ドライブ・マイ・カー』が第94回アカデミー賞で国際長編映画賞を受賞した。物語の中心的役割を担う「クルマ」の描かれ方に、過去から現代、未来へと移ろう人々と車の関係を見て取ることができる。
これからのクルマと社会のありようは
近年の自動車業界では「MaaS」(Mobility as a Service)という個人の私的な所有・利用に限定しないモビリティのあり方が注目を集めてきた。
そこではモビリティのビジネスやテクノロジーの変化に焦点が当たりがちだが、そこに含まれる文化や価値観の変化が伴わなければ表面的なものにとどまるだろう。
新車販売台数は1990(平成2)年の780万台というピークから2010年代以降500万台を切るまでに減少した。一方、中古車販売台数は、1990年代後半以降の800万台を超える時期をへて、現在、700万台前後で推移している。
また、運転免許保有率の男女比の差が縮まり、自動車の個人所有の割合も低下し、多彩な共有型へと徐々にシフトしている。
そのような現在において、クルマというテクノロジーが「自我の殻」として次々に消費される新商品ではなく、「記憶の器」として継承・共有されていく文化的な物財になるとすればどうか。
『ドライブ・マイ・カー』が映し出すサーブ900が走る美しい姿は、その先にあるモビリティの文化を幻視させてくれる。