かつては変人扱い! 「一人旅」が今では全然恥ずかしくなくなった根本理由
「おひとりさま」の急増傾向

2010年代から本格的に増加した一人旅は、「おひとりさま」の一般化と深く関連している。この言葉は2005(平成17)年に流行語にノミネートされた。社会学者の上野千鶴子が2007年に発行した『おひとりさまの老後』や、マーケティングリサーチャーの三浦展が2013年に発行した『日本人はこれから何を買うのか?「超おひとりさま社会」の消費と行動』などの書籍では、一人暮らしが未婚の若者だけでなく、高齢者にも急増することが予見されている。
実際、2011年頃から
・一人カラオケ
・一人焼き肉専門店
など、「おひとりさま」をターゲットにした店舗が多くの業界で急増している。旅行業界も、このような社会の変化に対応してきた。
また、消費者の意識の変化も重要だ。吉澤清良・久保田美穂子・小林英俊による論文「一人旅の現状とその特性に関する一考察」(『第28回日本観光研究学会全国大会学術論文集』2013年)には、こう記されている。
「一人旅の増加要因としてよくいわれるのが社会的な背景である。2010年10月現在、単身世帯が初めて3割を超えたことや、40代で独身の割合が男性で3割、女性で2割に達するなど未婚率が高まっていることなどが挙げられている。しかし、一人旅の増加は世帯構成の変化ばかりではなく、自立している人、他に依存せずに生きていくと覚悟を決めた人が増えていることが、深く関係しているものと考えられる」
この考察は、一人旅の増加が単なる世帯構成の変化にとどまらず、個人の価値観や生き方の変化、さらにはそれにともなう社会の変容によるものであることを示している。一人旅の増加は、生涯独身を含む多様なライフスタイルの選択が社会に浸透している証拠だ。
もう一つ、コロナ禍が人々の旅行に対する意識や行動に大きな変化をもたらしたことも、一人旅の増加を促進したことは間違いない。外出制限やソーシャルディスタンスの実施により、多くの人々がいや応なしに「個」の時間と向き合うことになった。この経験は、皮肉にも「ひとり時間」の価値を再認識させるきっかけとなった。