松本市「路線バス」が4月公設民営へ なぜ負担増までして赤字路線を死守するのか?

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長野県松本市を走る路線バスが4月1日、公設民営に移行する。行政の関与と負担を増やして路線を維持するわけで、人口減少時代の公共交通のあり方に一石を投じそうだ。

路線バス利用者、60年代から54%減

古いバスの車内イメージ(画像:写真AC)
古いバスの車内イメージ(画像:写真AC)

 路線バスの利用者が減っているのは松本市だけでない。

 全国の約2400のバス事業者からなる日本バス協会(東京都千代田区)によると、全国の乗り合いバス利用者は高度経済成長期の1960年代後半に年間100億人台だったが、年々減少を続け、2019年度は

「約42億6000万人」

まで減少した。背景には一家に1台から大人ひとりに1台となった自家用車の普及がある。

 この間、多くの地方自治体は赤字路線に補てん金を出して路線維持に努める一方、立地適正化計画を立てて商業施設や医療機関など都市機能を中心部や拠点に集約して住民を誘導し、行政コストを軽減するコンパクトシティを目指してきた。しかし、岡山県津山市など先進地とされた計画の破たんが相次ぐなど、コンパクトシティの推進は遅々として進まない。

 さらに、コロナ禍が路線バス事業者に深刻なダメージを与えた。国土交通省によると、2020年度は運行事業者の99.6%が赤字に。2020年度までの10年間で全国

「約1万3000km」

の路線が廃止されたが、その後も北海道の岩見沢市営バス万字線など路線廃止が相次いでいる。長崎県佐世保市など公営バスの廃止も各地で見られる。

公設民営は欧州で成功例

松本市の市街地の様子(画像:(C)Google)
松本市の市街地の様子(画像:(C)Google)

 その間も人口減少は全国で続いている。

 松本市は2050年に人口が20万人を下回ると推計されているが、ほとんどの地方都市が同様の人口減少に直面する見通し。国交省は全国の居住地域の5割強で人口が2050年までに半減し、2割弱で無人化すると見ている。

 こうした状況下で路線バスが廃止されればどうなるだろうか。公共交通が空白化すると、運転免許証を持たない高齢者や障害者の暮らしが立ち行かなくなる可能性がある。商店や医療機関が消失すれば、人口減少がさらに加速する。その結果、自治体財政の悪化で行政サービスが低下しかねない。

 国の財政は悪化の一途をたどっている。地方都市の財政も人口減少による税収の低下で厳しさを増すばかりだ。これ以上、自治体の体力が削られる前に公共交通の維持に対処しないと手遅れになる。

 公設民営による公共交通の維持は欧州で一般的になっており、成功例が各地で見られる。路線バスの維持に苦労する自治体が検討する価値は十分にありそうだ。

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