なぜスズキは「軽トラ」にCO2回収装置を載せたのか? マツダとの差別化に見る“日本式脱炭素”の勝算
世界でEV販売が3割を占める大潮流のなか、日本の自動車産業は「EV一本道」に抗う新たな地平を切り拓きつつある。スズキの農業連携やマツダの燃料循環に代表される、走行排気からCO2を回収・利活用する独自の「適地適車」戦略。他産業を巻き込み、排出削減から「炭素の価値化」へ挑む最新の競争軸を追う。
軽トラと農業を結ぶ地域循環の形

スズキが回収の仕組みを載せる舞台として軽トラックのスーパーキャリイを選んだのは、地域の暮らしを支える農業との深い結びつきがあるからだ。
日本自動車工業会が2026年4月に発表した「2025年度軽自動車の使用実態調査」によると、軽トラックの主な使い道のおよそ3割を農業が占めている。運送業などの商業利用よりも農作業の現場に深く入り込んでいるのが実態であり、スズキが地方の生産者にとっていかに身近な存在であるかが伝わってくる。
さらにこの取り組みは、灯油を燃やして出る二酸化炭素で野菜などを育てるハウス農業の仕組みにうまく噛み合っている。スズキの計算によれば、この仕組みを載せた車でおよそ20km走ったときに出る約2kgのCO2のうち、約半分にあたる1kgを捕まえることができる。これを20a(2000平方メートル)ほどの広さのハウスに運び込めば、これまで灯油を燃やしてまかなっていたCO2の約25%を代わりに補える。結果として農家が買い入れる灯油の量が減り、作物を育てるための費用を直接削ることにつながる。
集めたCO2の行き先をすぐ近くに確保できるこの形は、移動の道具だった車が地方の農業をエネルギー面から助ける役割を持ち始めたことを意味している。車をただ作って売るだけでなく、地域の生産活動に深く関わっていく自動車メーカーの姿勢の変化が、産業の壁を越えた新たな循環を作り出そうとしている。