「結局は税金頼みなのか」 和歌山の伝説的ローカル線、公設民営化をめぐる賛否――“名物駅長”が救った赤字5億、その19年後とは
和歌山電鐵は貴志川線(14.3km)で、みなし上下分離から完全上下分離へ踏み切る。年間1.5億円の赤字でも、地域全体では10億円超の便益が見込まれるという試算。ローカル線維持を「企業収支」から「地域収支」で捉え直す実験が始まる。
鉄道赤字と地域収支の黒字構造

和歌山電鐵がみなし上下分離方式から完全上下分離方式へ移行すれば、地元自治体の財政負担は確実に増える。そのため、「最終的には自治体や税金に頼る形ではないか」という批判が出るのも自然だ。
ただし、和歌山電鐵という一企業の収支に限らず、地域全体の収支で捉えると評価は変わる。
南海電気鉄道が貴志川線の廃止方針を示した段階で、地元では地域全体を対象とした詳細な費用対効果分析が行われていた。和歌山大学経済学部助教授(当時)の辻本勝久氏が編著し、WCAN(和歌山市民アクティブネットワーク)貴志川線分科会がまとめた「貴志川線存続に向けた市民報告書~費用対効果分析と再生プラン~」(2005年1月発行)である。この報告書は、交通計画の専門手法を用い、貴志川線を鉄道として存続させた場合の社会的効果を推計している。
同報告書によれば、上下分離方式で貴志川線を存続させた場合の社会的便益は年間約14.8億円に達する。内訳は、鉄道利用者の所要時間短縮が約2.6億円、交通費の節約が約6.3億円だ。並行道路を利用する自動車交通についても、渋滞緩和による所要時間短縮が約6.1億円、交通費節約が約1億円と試算されている。加えて、交通事故の減少が約0.3億円、環境改善効果が約0.1億円とされる。一方で、事業者の収支は約1.5億円の赤字となる(南海貴志川線対策協議会「南海貴志川線沿線交通対策調査概要報告書」)。
仮に年間1.5億円の赤字を地域で負担したとしても、地域全体の収支では年間10億円超の黒字が生じる計算になる。