なぜ巨大船は「ブレーキなし」で止まれるのか? 知られざる減速方法を解説する
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船舶は全長300m、20万tを超える巨体を水上で安全に停止させるため、多様な減速技術と綿密な操船計画を駆使している。エンジン出力調整や逆回転プロペラ、舵の操作に加え、スラスターやタグボート、自動船位保持システムが連携。数kmにも及ぶ停止距離と時間を計算し、熟練の判断で事故を回避している実態に迫る。
スクリュープロペラ逆回転の力学

船の動力には、自動車と同じようにエンジンが使われている。ただし、船にはいわゆるブレーキがない。では、船舶はどのようにして減速や停止を実現しているのか。その原理と仕組みを整理する。
自動車のような陸上の車両は、ブレーキペダルを踏むことで摩擦を発生させ、即座に速度を落とせる。一方で、船舶は水という抵抗の少ない流体の上を進むため、まったく異なる制御が求められる。地面に密着するタイヤと違って、スクリュープロペラが推進力を生み出す構造では、減速にも時間を要する。
さらに、船舶の質量は桁違いに大きい。全長300mを超えるコンテナ船の場合、総重量が20万tを超えることもある。このような巨大な物体を急停止させるには、莫大なエネルギーを必要とする。そのため、船は「すぐには止まれない」ことを前提に設計され、運用されている。
最も基本的な減速方法は、エンジンの出力を下げることだ。出力を絞ることでスクリュープロペラの回転が緩やかになり、前進する力が徐々に弱まっていく。しかし、慣性の影響で、エンジンを止めても船はしばらく進み続ける。このため、追加の減速手段が必要となる。
その役割を果たすのが、スクリュープロペラの逆回転である。プロペラを逆に回すと、水を船の前方へ押し出す力が生まれる。これにより、前進方向とは逆向きの推進力が発生し、船の運動エネルギーを相殺することで停止に導く。
可変ピッチプロペラを備えた船であれば、プロペラの回転方向を変えずに逆推力を得ることも可能だ。ただし、逆転操作は即時に行えるわけではない。通常は数分から十数分かかり、船の速度や状況によっては、完全に停止するまでに数kmを要することもある。