日曜夜9時、東京駅ホームはなぜ「恋人たちの舞台」になったのか――80~90年代「シンデレラ・エクスプレス」が描いた週末ドラマとは

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民営化直後のJR東海は知名度不足に直面した。週末の最終列車ホームを舞台に、年間65回放送のCMと駅ポスターで地域認知を急速に浸透させた戦略は、遠距離恋愛という共感演出とメディア連動を両立させ、都市と地方のブランド格差解消にも寄与した。

駅空間が築いたブランド力

 シンデレラ・エクスプレスは、民営化直後のJR東海が抱えた知名度不足を補うために企画された。

 利用者の生活に寄り添う共感演出と、駅空間とメディアの連動を組み合わせた広告戦略である。当時、最終列車のホームは時間と感情の価値を生む舞台として機能した。

 ここでの広告は、テレビCMやポスターと組み合わせることで、地域社会へのブランド浸透を効率的に促した。

 都市部では短期間で認知が定着したが、地方では数年を要することもあった。これは駅空間と利用者の接触頻度、情報伝達の速さが地域ごとに異なるためである。広告戦略を立てる際は、こうした地域差を考慮する必要がある。

 スマートフォンやオンライン交流の普及で、移動と体験は分離されつつある。しかし、当時の駅空間が果たした文化的・感情的役割は、交通事業のブランド戦略を考える上で今も示唆に富む。

 スマートフォン時代の現在、ホームで別れを惜しむカップルはどれほどいるだろうか。

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